D.Gray-man

 

どさどさどさっっ



人間万事塞翁が馬



 アレンが何か大きな音に目を覚ます。 此所は教団ではなく任務先の宿。
 部屋はアレン一人だけだったので訊ねようにも、部屋の外へ行かねばならない。
「何の音だろう?」
 ドサドサと何か重い物が屋根から落ちた音。
 アレンは何度かそれが聞こえてどうしても気になったものだから、宿の外へ出てみることにした。
 何しろ宿の人が見当たらない。
「寝坊しちゃったかな?」
 いつもなら定時どおりに起こしてくれるティムは寒さにアレンの懐に潜り込んでいて一緒に眠っていた。
「起こしてくれれば良かったのに」
 今はしっかりコートを着込んで寒さ対策もしたアレン。その周りをティムキャンピーが飛び廻っていた。
「二人は何処行ったんだろう?」
 今回の任務はラビと神田が一緒だった。相変わらず神田はアレンを『モヤシ』と呼び、アレンは毎回それを訂正していて、喧嘩腰になる二人を宥めるのはラビの役目。
 今日は任務を終えて教団に帰る日に当たっていたものの、先日から続いていた大雪で列車が運行停止に追い込まれていた。運行停止の状態では切符も確保出来ず、仕方なしに先日宿を急ぎ取り、今に至っている。
 外に出る前にラビと神田に与えられた部屋をノックしてみるが、応答は無かった。眠っているのだろうという感覚はない。片方があの神田では。
 アレンの耳にひときわ大きな音が聞こえた。
 外からだ。そういえば外に出るつもりで歩いていたのだ。もしかしたら二人も外にいるだろう。
「一体何の音かな?」
 外へ続く扉に手をかけ、外へ歩き出す。
「危ない!」
「っ!?」
 扉を出た直後、ひときわ大きな音と氷の固まりが頭上から降って来た。アレンは咄嗟に避けた。
「アレン!?」
「いっ!?」
 直後、足を滑らせたアレンは仰向けに倒れた。
 その時、鈍い音がアレンの後頭部から聞こえたのは言うまでもない。



 折角汽車の運行が再開したのに、アレンが怪我をしたお陰で暫く伸びそうだ。
 しかしアレンが悪いわけでは無かったから、それは神妙に受け止めることにする。おかしいと思われるかもしれないが、こういった軽いアクシデントが起きた時は『停滞』の暗示だからだ。そしてそれはあながち外れていない。先を急ぐと必ず更なるアクシデントに見舞われる。長い間…という分けでもないが、ラビは経験上その『勘』に従っている。

 ラビはアレンの後頭部に濡らして絞ったタオルをのせた。アレンの顔は俯いているから見えないが肩の力が抜けたから安堵した。
「ダイジョブか?」
「…なんとか」
 直後、一瞬星が見えて、アレンは起き上がる事が出来なかった。ラビが屋根から降りてきて、手を差し伸べてくれる迄。
「あーあ。でっけぇタンコブ。こりゃ暫く後が残るぞ?」
 リナリーに怒られるな、こりゃ。とラビは毒づいた。アレンはリナリーの一番のお気に入りだ。最近の、だが。
 だから怪我を目立つ所にして帰ると必ず怒る。そのとばっちりを受けるのはアレンと一緒に任務についたエクソシスト。
「痛い?」
「いえ、それ程でも。師匠のカナヅチに叩かれた時に比べたら良い方ですよ?」
 石頭な方だと思ってたんですが、後頭部は違ったみたいです。僕。
「うわぁ…」
 やな比較だな、オイ。
 しかもどういう教育してるんだ。あの元帥は。
「神田はどうしたんです?」
 首を横にねじって、部屋の見渡す。神田の姿が見当たらないことに気付いたアレンが声をだす。立ったはいいが歩けないアレンを部屋に連れ戻してくれたのはラビだけで。
 まだ声が傷に響いたが、我慢出来ない程ではなかった。
「あぁ。あいつは罰として一人で上さ」
 ラビがいつものバンダナを降ろしているのが目に入ったが、神田一人だけ屋根の雪下ろし(をしていたらしい。ラビが買って出たようだ)になっているとはどういう原因でなのか。
「え?罰?なんでまた」
「アレンの後頭部の氷雪と避けた分は両方ともユウが落としたシロモンなんさー。ごめんな」
 あいつバカだから考えなしに下に落とせばいいと思っちゃってるみたいなんさ。
「…ナルホド」
 アレンは彼が一人でいる理由に納得した。
 神田の降ろした氷雪でアレンは足を滑らしたようなものだからと、ラビは神田に一人で雪下ろしを命じた。
「でも…僕も不注意でしたし、もう大丈夫ですよ。なんならもう少し休んだら僕も手伝いますし?」
 アレンは一人だけ寝坊して雪かきどころか何もしてないのに気付き、手伝おうと身体を起こしかけた。
「ダメさ!それはぜってーダメ!後が恐いんさ!!」
 ラビはアレンの身体が起き上がる前に再びベッドに押し付けた。こんなたんこぶを作った状態で教団に戻ったらリナリーの逆襲は免れない。確かにアレンは可愛いが恐い。黒いアレンを知ってしまってから尚更。けれどその恐さを上回るのはあのコムイの妹、リナリーの方。
「へ?」
 ラビの剣幕にアレンは引いた。
 過保護だな、と思うことは出来ない。自分が愛されるべき対象になっているのを認知出来ていないのだから。
「ラビ?どうしたんですか?」
「っ!兎に角!アレンはそのまま休んでるんさ!俺っちが後でアレンの分までやって来るから!いいな!今日はそこで休んでること!切符もとれたら連絡すっから!な!!」
「は・・・い?」
 ラビはアレンに追求される前に言い諭して部屋を出て行ってしまった。


 一人残されたのはアレン。もちろんベッド枕脇にティムキャンピーもいたが。
「一体、何だったのかな、ラビ…?」
 アレンは傍にいたティムキャンピーに訊いてみたが、答えが返って来るはずもなかった。
 何かに脅えた風だった、とは後のアレンの話。


 その頃の神田。
「チッ…何で俺が…」
 すっかり不機嫌モードのまま作業はほぼ終えていた。



End
 

ラビ→アレン←リナリー(アレンを可愛がり)の構図?
初めはお題に使おうと思っていたのですがテーマの方向性が変わってきちゃったので止めました。
※人間万事塞翁が馬
人生は何が幸いにして、何が禍いするかわからない。の意。

 

 

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