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森の中。
ラビが目を覚ましたらそこにあったのは小さな泉が一つ。
「エーと…ここはどこさ?」
確か自分は今しがたAKUMAと戦っていた筈だ。アレンと一緒に。
「そうだ、アレーン…て、いねぇし……また迷子になっちまったとか?それとも俺が迷子か?」
周りを見渡しても見えるのは泉と木々だけ。人の姿など、どこにもありはしなかった。
「ま、俺が迷子になったとしても鎚で登ればいいだけだし…ってねぇし!?」
その時になって初めてラビは鎚を収めているホルダーが空になっていることに気付いた。
折角鎚の「伸」の能力を使ってこの森から脱出しようと思っていたのに、肝心の鎚がないのでは、毎度迷子になるアレンをバカには出来ない。星の位置から方角を割り出して抜け出そうにも、今は昼で木々が邪魔して太陽の位置も解らずじまい。
「あああ〜なんてこったい…何処に落っことしたんかなぁ?」
気付いたら泉の目の前というのが怪しいが、取りあえず泉の周辺を探してみる。もしかしたら草の間に落ちている可能性だって捨てきれない。泉の中に落ちたとは考えたくない。
「装備型っていうのもこういう時不便さぁ」
這いつくばって草をなぞってみる。手にそれらしい形にはぶつからない。
「もし、そこのお方…」
声がかかるがラビはそのまま鎚を探し続ける。
「手にしてないから呼んでも反応しないしさ。返事するわけないし。」
「探し物はこれですか?」
「如意棒だったら、手離してても呼べば来るんだろうなぁ…え?」
ラビの背後からの声にやっと気付いて振り返るとそこに立っていた人は泉の上に浮かんでいた。
「あ…れ」
ラビの目の前に立つ人は人間ではないのかもしれない。
泉の上に立てる人間は普通いないだろうから。さしずめ呼ぶなら「泉の精」だろうか?
軽やかな声で泉の上に立つ「泉の精」はラビに訊ねる。
「あなたが落としたのは金の鎚ですか?それとも銀の鎚?」
ラビは差し出される鎚どころではなく、泉の精の顔に見入っていた。
「あれん?じゃない?」
そう。泉の精の顔はラビの良く知ったエクソシストの少年。
その瞬間、ラビの目の前は真っ白になった。
次に気付けば。
アレンは眉を寄せてラビを覗き込んでいた。
「ラビ?」
「泉の精…鎚なんていいから…」
ラビはまだ夢の中の住人のつもりらしく、現実味を帯びない言葉を吐く。
「は?」
何を言い出したこの人?とアレンは内心思っていたが声には出さない。
「ラビ、頭打ちましたか?」
それも聞き方によってはひどく失礼な言葉だったかもしれないと気付いたのは大分後。
膝の上に置いた彼の頭はしっかりと固定されていたものの、次の言葉で両手を思わず離してしまったからラビはアレンの膝からおさらばすることになる。
「鎚よりアレンが欲し…え?」
「えぇっ!?」
大分寝ぼけた発言だったとラビが気付いたのはアレンの膝から落下してから。
数分後、ラビは体中に異常がないことを確かめてから起き上がり、夢の内容を話して聞かせた。
「…という夢を見たんさ。面白いと思わん?」
「へぇ。それじゃあ僕は泉の精ってことなんですか。随分童話っぽい夢ですね」
「夢はあくまで夢さ。コントロール出来るモンでもないし」
ラビにしてみれば望んでみた内容ではないだろうという物言いに、アレンは眉を寄せた。
「…それはそうですが…」
じゃあ夢と言葉の意味は?
「…っくっしょんっ」
「へぶしっっ…うー早く戻ろうぜ」
「…そうですね」
すっかり二人の団服は水をたっぷりと吸い込んで重くなっていた。その為に体温が低くなっていて、二人ともほぼ同時にくしゃみをして。やっと戻ることになった。歩いて戻るには皆と距離が離されて槌を使うことになって、ちょっとばかり冷えるだろうからと速度を落として飛ぶべきか議論もしたり。
「こういうのは一気に飛んでって向こうであったまったほうがいいんじゃね?」
「うーん。どうなんでしょうね・・・ラビにお任せしますよ。そんなに回数こなしてないからどっちが良いのかは良く分かりませんし・・・っくっっしょっ」
「ダイジョブか?取り合えず、風邪引く前に帰るしかないな・・・」
ラビが気を失う直前、湖に落ちたアレンをサポートすべくAKUMAの攻撃に対抗して鎚で防戦していたが、ちょっとした隙をつかれてラビまで湖に落ちた。その際、衝撃があったのか気を失ったままの彼をサポートしたのはアレン。結局全てのAKUMAを壊したのもアレンだった。
鎚に掴まってリナリー達の元へ戻る最中、ラビが口を開いた。
「悪いな、アレン。俺のがお兄さんなのに、先に気絶しちまうなんてさ」
「まあ仕方ないですよ。でもよく怪我しなかったですね」
「今回はたまたま運が良かったさね・・・にしても惜しかったさ〜なんであんなところで気絶してたかな、俺」
「はぁ・・・」
アレンはラビの寝ぼけた発言を思い出す。彼は本気なのか冗談なのかわからない言葉を吐いていた。あれが本気だとしても、どういう意味なのか、アレンには読めない。普段からおちゃらけた風に接してくるし、スキンシップが好きな人種なのだとアレンは思っていたのだが。たまに聞く口説き言葉にアレンはしばしば反応に困っていた。
「もう少し早めに気付いてアレンの膝枕を堪能しておけば良かったさ〜」
「打たれたいならお早めにどうぞ」
この移動の最中でもアレンは左手を開けていたので発動は出来る。しかしラビはアレンの返答もどうとっているのか不埒な発言を続ける。
「いやいやいやいや、膝枕は嬉しいけど、人工呼吸してくれたらもっと嬉しいさね」
「いっそ一度息止めて来ても構いませんよ?僕はしませんけどね」
ラビの発言はどうみても、アピールしている言葉だったが、アレンはそれを本気とは思えなくて冷たい返答をするのみ。
ラビもそれはいつものことだったから、さしたる程めげてはいない。
「…アレン」
「…なんですか?」
「さっきの言葉、もしかして気にしてる?」
「さっきの言葉?」
アレンの表情は至って普通のもの。但し傍から見た分では。
けれどラビは見て知っている。
「…アレンが欲しいのは嘘じゃないからな」
「はぁ…そうですか…って、え!?」
てっきり寝ぼけて出たものだと思っていただけに、その言葉は驚くには十分なもの。
「どっどういう意味で−っ!?」
「ほら、着くから踏んばれー!」
「わぁああああああああああああ!ブレーキ!ブレーキ!!ラビっ!」
「んなもんあるわけないっしょ?」
わはは。
後はけたたましい叫びと衝撃と騒音に似た音がそこにこだました。
もちろんその後構造物を破壊したラビたちがブックマンから怖いお叱りを受けたのはここに書くまでもない。
End
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