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硝煙の匂いがした。
戦場で嗅ぎ慣れてしまった匂い。
記憶の中から呼び起こされて、今夢に見ているのかもしれない。
何しろ、幼い頃からこの匂いとは縁が深い。
一番記憶に深く結びついているのはマナとの最後の別れの記憶。
『オモイダスナ』
『ジブンヲマタキズツケルキカ?』
もう一人の自分が夢の中で叫ぶ。
それは自己防衛。
辛い記憶を呼び覚ますことにより、傷ついて足を止めてしまうのを避けるため。
『ハヤク、ユメカラサメナケレバナラナイ』
アレンはそう思って、まぶたをあけた。
「あ、起こしちゃったか?」
まずったなぁ。とその声の方向に顔を上げてみればその人物から硝煙がいっそう強く漂って来た。
「らび?」
どうしてここに?とは声にならなくて、ベッドの上で首を傾げた(実際、寝起きのアレンは首を動かしているつもりだけにとどまったのだけれど)。
確かラビはブックマンと一緒に遠方の任務に赴いていた筈だったから。
「びっくりしたさぁ。戻ってみたらお前、談話室で倒れていたんだぞ」
床に。
ラビはそう言うが、アレンには記憶がなかった。
おそらく寝不足で気づかない間に倒れていたのだと思った。これで何度目になるだろうか、ラビに運ばれるのは。
「すみませんでした」
「いいって。一応医務室で見て貰って『過労』だろうってことで診断されたから、運んだんさ?」
ごめんな。
「いえ、ありがとう」
起きて呼吸をすれば自然硝煙の匂いが鼻をつき、いまは夢の中ではないことを自覚させられた。
依然、ラビの服から髪から漂う匂い。
それは戦闘で染み付いてしまった匂いだろうと思われた。
大好きな人から漂う匂いがそれであっては、アレンも観念した。
それに辛い記憶と結びついていたとしても今は夢の中じゃない、現実なのだから。
何より笑って、無事であることに安心出来た。
「お帰りなさい、ラビ」
「タダイマさ。アレン」
ラビの笑みが返されて、彼が顔に擦り傷を作っていることは見てとれた。けれど血の匂いは殆どしない。おそらく顔以外は怪我がないのだと判断できた。手を伸ばして確認をしてみた。
「な、なに?」
「ふふ。なんでもないです」
事実、血はもう乾いていた。そのことに安心してアレンは微笑んだ。伸ばした手を下ろし、ラビの手を掴んでみた。
「そうなん?」
「ええ」
いまここに彼が生きているという事実が大切なのだということ。匂いのことなんて脳の隅にでもおいやってしまえばいい。その為には『彼』が必要不可欠。
彼の体温と、その皮膚のしたを流れる血の暖かさに、アレンは再びまぶたをおろした。
生きて帰ってくれて、ありがとう、と。
END
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