切なさの意味
「37.8℃・・・風邪も引いてますね。薬出しておきますので毎食後飲む様にして下さいね」
「はぁ・・・」
「風邪ぇ?」
アレンは気のない返事をした。ラビも気づいては居たようだったが熱がそれ程あったとは気づかなかったらしい。てっきり打ち身で熱を持っていたと思っていただけで。
手当を受けたアレンは帰り道、ラビに姫抱きではなく、おんぶさせられていた。
元々頭を強く打っているからまだ普通に歩く事は難しかった。
「ん…ぅ」
少しずつ背中に掛かって来る重みに、ラビは内心ドキドキしていたものの、平静を装っていた。
アレンが力を抜けばその分身体が密着する事になるから、ラビに取ってはかなり苦痛を強いられることになる。いくらサポーターで胸を覆っていてもラビにとってアレンは『女の子』だから。
が、そんなことには気付いていないアレンは睡魔の欲求に身体を預けようとしていた。
それは風邪を引いているとも判断され、処方される他にも薬を飲まされた副作用からなのだが。
「アレン、おなか空いているんじゃなかったっけ?」
「…空いて…ますけどー…」
薬が即効性なのか酷く眠く眼を開けているのも辛いらしい。
今にも眠りに落ちそうな声にラビは声を立てず笑う。
「だったら我慢しろよ?本当ならまだ医療所で休んでいるのを無理言って出て来たんだからさ」
「解ってます…迷惑かけますーらびぃ」
「…っ」
甘えの混じった声に、ラビは思わず足が止まってしまった。
女性に舌たらずな言葉で呼びかけられたことなど、無い。ましてやアレンになど。
ラビはまだ本当に18歳で。女性にはついつい目が行ってしまうほど健康な青少年の部類だったが、常に師のブックマンと一緒だったから女性との付き合いは無いに等しい。
無意識と無垢は恐いとは良く言ったものだとラビは思い、再び食堂へ足を動かすのだが。
「アレン、寝るなよ?」
彼女の身体は依然重みをましていた。
「…ぅー…」
「おーい?」
言っても効果があるかどうかは解らなかったが、自分も一応男だ。アレンも一応…と言ったら怒られるかもしれないが、女の子。
ラビは覚悟を決めて問う。
「アレンー?寝ちゃったらお前の部屋に押し掛けて俺も一緒に寝るぞ?」
それでもいいんか?
「…ぃいーですよぅ…」
「ぇへっ!?」
想像してなかった答えに、ラビは再び足を止めた。
「なっ…んで…?」
それは問いじゃなかったのだが、アレンはラビの問いと思ったらしく声が返って来る。
「ラビの事好きだからー」
「へっ!?」
寝ぼけてる?
ラビは急いで振り返り、アレンの顔を覗き込んだが。
既に彼女は、彼の背中で寝息を立てていた。
「…寝てる…ウソだろ…」
多分、アレンは自分の事を『仲間』として答えたのだろうとラビは判断することにした。
そうでも無いとアレンを傷つけてしまうから。
もっとも寝ぼけている人間がまともな台詞を吐くことは出来ないだろうが。
仕方ない。
「ジェリーにサンドイッチでも作ってもらうかな?」
自分の分も追加して。
何しろ任務から戻ってこっち一度も食べ物を口に入れてない。
しかし空腹を感じなかったのはごたごたしていたから。
そのうえアレンと一緒にいる時間が偶然にとは言え長かったから空腹を感じなかったなんて、そんなこと。
「言えるワケないっしょ…」
出会った時からアレンを直感で女の子だと見抜いた自分も褒めたいが。
女の子と解ったら目が離せなくて。
最近はますます気になって。
気付けば無意識で彼女を探していた。
アレンはラビにとって、もう仲間以上の『好き』になってしまっていた。
だから書室で眠っているアレンを見て切なくなったのだ。
「…どうすっかなー?」
ブックマンにはなりたい。その為にいろんなモノを捨てて来た。
けれどアレンも欲しいと思う自分にラビは気付いてしまったから。
『好き』なだけでは居られない。
「じじぃは怒るかな…」
アレンを口説いたら。
それは当然かもしれないが、ブックマンだって人間だ。
感情で人生左右されることだって十分あり得るのだから。
ふと先ほどアレンを預ける形になった神田も未だアレンが女の子であることに気付いていないらしいのはラビに取って幸いだった。意識しているのはラビにも見てとれたが、アレンは入団して大分経った今も神田を苦手としているから、今更アピールしても振り向く確率は少ないだろうとラビは見込んでいた。
とにかく。
ライバルは多いより少ない方がいい。
「少なくともユウよりは優位な位置なんかもな」
>>End<<
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