出会いは偶然か必然か 3
それに気付いたのはちょっとしたこと。恐らく他の人間がみたところでは一見何も解らないだろうという仕草だ。
それくらい些細な事では神田も気付く筈もなくて。
ユウはまだ気付いてないみたいだけど。
アレンが女の子だってこと。
「何か言いました?」
「うんにゃ。気にせんで。独り言だから」
アレンは巧妙なまでに男装していて、ちょっと見た目ぐらいでは判断出来ない。
ラビだから気付いた。看護に着替えさせられた服は質素なもので、彼女の身体の線を浮き立たせるには十分なしろもの。しかし微細な線だから気付いたのは恐らくブックマンとラビ。それと彼女を診た医者ぐらいだろう。
コムイは何も言わないところをみる限り、アレンの内情を知っているのだろうとラビは判断して何も訊かなかった。何しろアレンを『君』づけで呼んでいる。
アレンには何もまだ言っていない。いつ確認するか、現在はタイミングを見計らっている。
「ラビ?」
「ん?」
「さっきから何で人の顔ジロジロ見てるんですか?」
気が散って仕方ないんですけど。
アレンが苦笑に近い笑みを浮かべて呟けば、ラビも同じように苦笑してみせた。
今はアクマも退治し終わって、荷物を纏めている最中だ。纏めると言ってもラビとブックマンの二人はたった先ほど駆け付けたばかりだったから荷物という荷物は無くてアレンの作業を見つめているだけだった。
「ごめんさー。ちょっとユウの事思い出していたんさ」
「へ?ユウって、神田?のことですか?そりゃまたどうして…」
さり気なくラビはアレンの質問を誤魔化して、神田の話題を振る。それで隙を見て確認するのも良いと思ったのだが。
「うん。さっき言ったっしょ?ユウがアレンの事『モヤシ』って言ってたって」
アレンは依然手を動かして荷物を纏めている。しかし『モヤシ』の単語に一瞬身体が硬直した。余程爆弾な言葉だったらしい。
「…えぇ、それは聞きましたけど。それがどうかしたんですか?」
あとモヤシじゃなくてアレンですからね、ラビ。
アレンは丁寧にだが、しっかりと名前を訂正することを忘れなかった。神田の印象はすこぶる悪かったのか無表情になりつつあって、ラビは密かに苦笑した。確かに神田は第一印象が悪いので教団内では有名だ。美人な顔立ちなだけに損していると神田の性格を知っている人間は呟くのだが、本人は素知らぬ状態。他人の抱く自分の印象などどうでもいいらしい。
神田らしいといえばそれまでだが。
「ユウってさ、顔がああだから誤解されやすいんさ」
「…まあそうですね。いっつもあんな怒った表情してれば誤解されるのも頷けますね」
ラビは決して神田の誤解を解いているわけではない。話の都合上そうなってしまっているが。
アレンはどう思っているのだろうか?
「アイツにはさ、目的があるんさ。だからAKUMAを倒すことに躊躇いはない。アレンは違うっしょ?」
その理由をラビは知っているけれどアレンには話さない。話すべきではないと知っているから。
「…目的…そうですね。ラビの話だと、僕と神田の目的は根本からして違う意味になる。僕は…」
何故かアレンはそれ以上言葉を紡ぐのを止めた。ラビもそれ以上訊くことはしない。
何か理由があるのを察しているから。
愛していた、たった一人の家族を手にかけた過去。
アレンが過去を思い出す時、素の表情になるのをラビは気付いていた。
沈黙が部屋に訪れた。
ラビはアレンを見る。アレンはどこか宙の一点を見つめたまま。
彼女の表情は何か過去の事に捕われたものだ。
ラビはその表情が、『女の子』のものであることを察し、呟く。確認するなら今だ、と。
「アレンて、女の子っしょ?」
「えっ・・・?」
誰にも言ってない筈。
後にアレンがコムイに訊ねたが、どうやらラビ自身が見抜いたと気付くのは少しだけ先の話。
>>End<<
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