D.Gray-man


『カーネリアン・ジョーカー・プリンス』

続編。
先にスカイブルー・マーメイドを読まれると内容がわかります。

 






 

 鬱陶しい梅雨の時期も明けて、さあ夏本番という時期。

 いやもう秋もそこまで来ている、そんな暦の上。
 ラビは談話室でなにやらリナリーと向かい合って手元を睨みつけていた。

 けれど暫くすると、ラビは両腕を天に向かって投げ出した。
「・・・くっそー!また負けたさー!」
「ふふ」
 どうやらラビ側が両手を上げて根を上げたらしく声を発した。その声はもう聞きなれたのかその場にいた数人の休憩している団員は対して驚く様子も見受けられない。団員が見ているのはその相手の少女側。
 見慣れない光景に、ほぼその場にいる団員が少女に注目していた。
 その少女リナリーは、ラビの悔しそうな表情に反して数枚のカードを手元に広げたままにこやかに微笑んで見せた。
「また私の勝ちね」
 そんな言葉もラビをあおるのか、彼は酷く傷ついた表情を一瞬だけ見せたのだが、直ぐ様テーブルの上に散らばっていたカードを集め出した。まだ諦めきれないらしい。その目には何か強い意志が見え隠れしている。理由を知るのは果たして何人いるのだろうか?
「もう一回勝負するさ!今度こそ勝つからな!」
 予想通り、どうやらラビは勝つまで勝負しつづけるつもりらしく、その瞳はらんらんと輝いていた。
「はいはい」
 でも勝てないと思うけど。
 小さく呟いた声は、幸いラビにははっきりとは聞き取れなかったようで、ラビは顔を上げてリナリーを見つめてきたが、ちょっと眉を顰めただけだった。



「くっそーなんで勝てねぇんさ!」
「もう・・・いい加減諦めたら?」

 二人のそんなやりとりが発せられたのは初めの勝負からどれくらい経った頃だろうか?
 さすがにラビの顔には疲労の色が浮かんでいたが、リナリーにはそれが見えずに彼の表情を呆れた者をみる目つきで眺めていただけ。
 談話室にいた筈の野次馬達は見ていられないと思ったのかどうかは知らないが、誰も残っては居なかった。
 なので談話室には二人きり。

「いやまだまださぁ・・・勝つまで・・・は・・・」
「もう・・・」

 リナリーがたしなめようとしてもラビの耳には入っていないようだ。いや、耳に入っていないというよりも聞き入れたくないだけなのかもしれない。明らかに顔色に疲労を滲ませて、自分の手元に散らばっていたカードを集めるのだが、目つきが怪しくなっている。

 なのでリナリーはこのゲームを始める前に確認したことを再度訊いてみることにした。
「ラビ」
「何?」
「そんなに、勝ちたい?」
「・・・あたりまえさ・・・勝たなきゃ意味ねぇんさ」
「そう・・・」
 リナリーは細いため息を零して彼を見つめ返した。他の方法なんて彼女にはいくらでも思いついたから。けれどラビには出来ないことだろうとも知っている。

 実はラビからこのゲームを仕掛けてきたわけじゃない。むしろ持ちかけたのはリナリーで。
 彼女は、ラビから持ちかけられた相談を『賭け』としてつき返した。
 それにもちろん乗ったのはラビだったけれど。

 いきなり突きつけられた勝負ではあったものの、ラビは勝てる自信は少しなりにもあった。
 けれど一度も勝てなかった。
 幼い頃からの付き合いで彼女相手のカードゲームはこれが始めてじゃなかった。
 過去、ラビはリナリーに勝ったこともあるし、負けたことも何度かある。
 しかし今日は一度も勝ててない。
 リナリーから持ちかけられた『賭け』に勝って、今度こそアレンと一緒に海に行くのだと決めていたのに。

 そう『賭け』の目的はそれだった。
 もしかしたら、煩悩の為に勝てないのかもしれないとラビは思い始めていたその時。

 声が聞こえてくる。
「あれ?二人ともこちらに居たんですか?」
 ラビの血気も殺ぐ言葉が、談話室にやってきた人物によって注がれるとは思いもしなかった。
「アレンくん」
「えっ!?」
 『賭け』の理由たる人物、ラビの恋人、アレン・ウォーカー。
 ラビは口をあんぐりとあけて間抜けにも見える顔をそちらに向ける。「なんでここにいるんさ!?」とでも言う心境か(酷いよラビ)。
「ラビ・・・?どうかしたんですか?」
 あまりに間抜けな表情に驚いたのはもちろんアレンだけ。なぜならリナリーは呆れるほどそんな表情を見てきたから、苦笑してラビの表情を見つめ、アレンを振り返った。
「なんでもないのよ。早かったのね、アレン君。私達を探してたの?」
「ええ。今さっき着いたところなんです・・・そうリナリーを探していたんです。コムイさんが呼んでましたよ」
 なんでも手伝って欲しいことがあるんですって。
 その言葉を聞き、リナリーはカードを自分の分だけまとめてテーブルの上に置くと立ち上がった。背後にいるラビを振り返る。
「分かったわ。知らせてくれてありがと。じゃあラビ、続きはまた時間出来たらね」
「え〜!?そりゃないさ〜!」
 突然の打ち切りに、戸惑わない筈もない(だって勝負をしかけた側はリナリーだったがラビは勝つまで勝負しつづけるつもりだったから)。
「ごめんね。じゃあ二人ともまたね」
 そう言ってリナリーは呆然とするラビとアレンを後に早々に立ち去った。

 仕方なく今日は諦めることにして、ラビは脳を切り替えた。
「アレン、お遣いに出てたんじゃなかったんさ?」
 今回は迷子にならないように、お目付け役のファインダーを一人連れて出かけていたのを昨日見ていたから。
「ええ。ついさっき戻ったところです」
「そっか。お帰り、アレン」
 にっこりと微笑まれてその言葉を聞かされると、アレンはどうしても胸のあたりがくすぐったくなるのを止められないのだけれど。
「・・・はい。ただいま、ラビ」
 今は返す言葉をちゃんと知っているから、アレンは嬉しそうに微笑んで答える。
 その笑みにラビは思わずアレンを抱きしめてしまうのだが、談話室には幸い誰もいなかったので見られることは無かった。
「もうっ!!少し節度を守って下さいってば!」
 抱きしめてくるラビを羞恥心から押し返し(何しろ二人以外誰もいないとは言ってもここは談話室。誰がいつ来るとも限らない)、なんとか引き剥がしたことに成功したアレンはテーブルの上にあるものに気づいた。
「そういえば、お邪魔でしたか?」
「いんや。全然。むしろ止めるタイミング逃してたから助かったさ」
 さんきゅ。と呟かれてアレンはにこりと笑みを浮かべた。
「ああ。けどしくじったさ〜まさかリナリーがあんなに強くなってるなんて」
「?カードゲームですか?まさか一度も勝ててないとか言わないですよね?」
「・・・うんにゃ。一度も勝ててないんさ〜以前はこんなこと無かったのにさ」
 ラビはとても残念そうに悔しがっていた。がっくりと項垂れて今にもののじを書きそうだ。
「・・・」
 そういえば・・・。
 アレンはふと何かを思い出した表情で、たらりと冷や汗を垂らした。そういえば以前リナリーにカードのイカサマ方法をしつこく聞かれて、ひとつだけ教えた技を思い出したのだ。
「へぇ・・・リナリーって強いんですね・・・」 
 アレンは一瞬焦りの表情を表に出した。しかしラビはこちらをみていない、すぐ表情を戻してラビに向き直る。

「けれどなぜリナリーに勝負を?」
 時にリナリーは誰にだって容赦はしないから、ラビに負けないようにアレンから教えてもらった技を使っていることも考えられる。
 けれど何か理由があってのことだろうと推測されて。
「いや・・・それはちょっとごめん。いえないさ。・・・
言ったら意味なくなっちまうし
 最後の言葉は消え入りそうな呟きでアレンには聞き取れなかった。
「それに勝負持ちかけたのはリナリーの方だったんさ。俺はちょっと頼みたかっただけなんだけどなー・・・」
 しかし即座に乗ったのはラビだから、リナリーを責めることも出来ない。
「?頼みって・・・」
「ごめん、それも言えない」
 立て続けに質問に対しての返答を返してくれないラビにアレンは少しだけむっとした表情を返した。
「・・・そうですか・・・」
 アレンの感情はとても分かりやすい(ラビにとっては、だが)。だからその口調に不安を感じてラビは慌てて付け足す。
「あっ、別に仲間はずれとかそういう意味じゃないんさ!けど、これはリナリーじゃないともう手に負えないことなんさ。悪いな、アレン」
「・・・うーん・・・そういうことなら・・・けど相手がリナリーじゃ僕がラビの代わりに相手するわけにはいかないですね」
 お役に立てなくてすみません。
 アレンは性別を偽っていても、紳士的なところは崩さなかった。だからリナリーやミランダに対してはあくまでも一歩下がって接する。
 それは養父と生活していた頃からの名残だけではないのだろう。
「いっいや!俺こそ、不甲斐なくてごめんさ!」
 アレンのため(実は自分の為だったりするが、ラビにとってはアレンのためを思っての事だった)に思っての行動が彼女を悲しませることになってはならないと、ラビは慌てて頭をさげた。
「?なんでラビが謝るんですか?別に悪いことじゃないんだし・・・」
「いやっとにかく・・・ごめんさ」
 ラビの理由はごく単純なものだったけれど、アレンにだけはまだ知られたくない男心だった。
 第一アレンを偽っていることには変わりない。しかし悪いこととは思ってはいない。
「だから謝られる筋合いが無いのに・・・って、ラビ?」
「?」
 アレンはラビの言葉に嘘はないと知る。しかしラビの慌てように、何かを思い出す。こういうときのラビは何かを隠したがってはいなかったか?自分に関することに対しては特に。そしてその彼が酷く自分に対して申し訳ない表情で謝る。
 符号が一致してアレンは瞬時に表情を変えた。
「まさかと思いますが、ラビ・・・」
 白い少女なのに、なぜかそのバックに見えるのは暗雲か。(いや関係ないのだろ、それは)雷もご丁寧にオプションつきである。
 ゴゴゴ、と効果音までついて見えるのはラビだけだ。アレンの上空だけに暗雲が立ち込め、稲光も見えるのは幻覚だと思いたい。とラビは思った。
 思っただけに現実はそう甘くは無い。
「リナリーに頼んでなにか不埒なことなんて考えてないですよね?」
「っ!!!」
 アレンの笑みが怖かった。普段怒る顔も凄く可愛いと思ってしまっている始末におえないラビだったが、今の笑顔はどうしてか迫力がある。
 けれど知られてしまっては計画は台無しだ。それだけは避けなければならないとラビは何か良い言い訳を考え始めた(その間10秒未満。意外に長い)。
「んなことあるわけないさ!ただ俺はアレンに強い男だってことアピールしたかっただけなんさ!だってそうだろ?女の子のリナリーにカードで負けるなんて男のプライド傷つけられまくりさ!?そうだろ?」
「えっ・・・と・・・そ、そうですね・・・」
 アレンは女性だったが、カードゲームならイカサマ無しでもそこそこに強かった。それは師匠であるクロスが招いた怪我の功名(?)ともいうが、実際教団に来るまでは殆どがそれで生計を立てていたと言っても過言ではない(何しろクロスの愛人に立ててもらっているお金というのはアレンの胃袋を満たしてはくれなかったのだから)。
 けれど異性のラビに、しかも恋人にそう言われてしまっては彼を立てないわけにもいかない。
 実際、ラビとカードのゲームをしたことはないので彼の実力の程は分からなかったのだけれど。

 アレンがそんな事を考えているとは知らないラビは、彼女の反応に内心「おっしゃ!俺よくやった!!」と自分を誉めていた。そして続けざまにアレンが自分を疑わないようにアピールする。
「だから負けている俺を見られたく無かったんさ。あ、これはリナリーにはナイショな?」
 言葉に嘘はない。ただオブラートを何枚にも重ねて真実を隠しておく。いずれはバレると思っているから。嘘を言ってアレンを困らせるつもりはなかった。
「・・・分かりました。でもラビ?」
「ん?」
 まだ何か疑われているのかと内心ヒヤヒヤしながらラビは訊き返すと、アレンは顔の向きだけはそのままに、何故か恥ずかしそうな表情で目線だけで見上げてきた。
「リナリーに負けたからって幻滅なんてしないですから安心して下さい」
 僕はラビが強いからって好きになったんじゃないですからね?
 そういうアレンは普段の何倍も可愛く見える(ラビビジョン?)。しかもその仕草に、ラビの脳内で兎が銃の引き金を引いた(いつものパターンですか?)。
「・・・っっ!!」
 反則的な言葉に、ラビは打ちのめされた。
 胸を貫く甘い痛みに、思わずアレンを強く抱き寄せた。
「ちょっ・・・ラビっ!!」
 普段そんな言葉を滅多に出してくれないだけに、愛しさが募る。
「俺ってば、幸せさ!俺も〜それだけで満足かも・・・」
 押しても引いてもビクともしないラビの求愛に、アレンは真っ赤になりながら談話室に誰も来ない事を祈るのだった。
「分かったから!こんなとこでこういう事しないで下さいってば!!」
 ティムも来ますから!
 どうやらティムはコムイの所に預けられたままらしく、そういえばアレンが姿を見せた時から傍に居ない。
「・・・じゃあアレンの部屋いこか?」
「///・・・だっダメ!」
 そんなことになったらラビの思うツボだったし、あんな殺人的に狭い部屋では落ち着かないとアレンは直ぐ様拒否した。
 別に身体の関係を求められているわけではないのに。
「え〜?んじゃ俺の・・・あの部屋は?」
「もっ・・・ダメです!!」
「あの〜」
「なんでダメなんさ?」
「ちょっと・・・離れて下さい・・・」
 顔っ近すぎです!!
 んーいいにおいさ、アレン。
「二人とも?」
「いいじゃんさ。俺達恋人なんだし、これくらい許してよ。アレン」
「それはそうですがっ・・・時と場所を考えて下さい!!」
 ここどこだと思っているんですか! 
「お取り込み中悪いんだけど・・・」
 散々二人のやり取りで時間経過の後、二人以外の声が割り込んできていることに漸く気づいた。
「!?」
「りっ・・・リナリー!」
 二人がはっとして振り返ったその先に居たのはコムイの元へ戻った筈のリナリー。
 アレンは恥ずかしさからか、ラビを突き飛ばすように身体を押し離して衣類の乱れを隠した(笑)。ラビは突き飛ばされた衝撃に尻餅を着いてしまったものの、背後にあったのはソファだったので痛みは殆ど無かった。そのままリナリーを見上げるが、悪びれた様子はない。
 何よりアレンは恥ずかしがり屋だったから突き飛ばされるのなんて、慣れている。
「リナリー?忘れもんさ?」
 リナリーにはアレンとの仲はばれているのだから、今どうこう言い訳しても意味は無いと知っているから。
「ううん。コムイ兄さんから伝言頼まれて戻ってきたの。ラビに任務だそうよv」
 急いでね!

 リナリーの笑みは別段異常無かったし、怖くは無かった。
 ただ、タイミングは悪かったようだ。
「「・・・」」
「じゃあ私は先行ってるから、なるべく早く来てね、ラビ」
 気のせいか嬉しそうなリナリーの様子に二人は唖然としながら見送った。

「・・・ラビ」
「・・・悪い。行って来るさ」
 続きはまた今度。
「はい・・・行ってらっしゃい・・・」

 チャンスを逃したラビは、それ以上どうする事も出来ず、リナリーの後を追ったのだった。(ああ、あわれ)
 アレンも少しだけ悪い事をした表情でラビの背中を見送った。


終わらない夏
 


 

その後のラビとリナリー


 リナリーが任務に向かおうとしていたラビを引き止めてこっそりと囁く。
 それは小悪魔的な囁きに近い。
「聞いたわよ、ラビ」 
「ひぇっ!?なっ!?」
 なんで?なにを?
 酷く動揺して裏返ったラビの声に満足感を抱きながら、リナリーは続ける。
「男の人のプライド傷つけちゃったみたいね?」
「!?聞いてっ・・・」
「ごめんね。ラビ」
「いやっ・・・あれは俺がしつこいのが悪かったんだし!」
 もしこの会話がコムイの耳に入ったらトンでもない仕打ちを受けるに決まっているから、慌てて首を振って見せた。
「それでね。お詫びと言ってはなんだけど・・・」
「いやっ気にせんでいいから!」
 俺が悪かったんだし。
 まるでロボットの動きみたいにラビは首を振る。しかしそんなに早くは無く、いささかギクシャクした動きだった。
 そんな動きに、リナリーは苦笑した。
「アレン君の水着姿・・・協力してあげてもいいわよ?」
「リナリー?」
「ただし、希望の水着じゃなくてもいいなら、ね?」
「ももっもちろんオッケーさ!」
 お願いします!リナリー様!!
 この際、黒のビキニにこだわっていられるほどの余裕はラビの中に存在してなかったとか。








 

 結局、ラビはりナりーからお詫びに相当する品(!?)をもらったとか。その際、お約束の鼻血も忘れなかったという。
 (もっともそれがアレンの水着姿によるものか、彼女が真実を知った事による攻撃の所為かは不明)

続き書けました・・・長かったー。

ここまでお読み下さって感謝です。

 

 

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