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少女は少年には恋を打ち明けない。
「・・・??」
眼を覚まし、まず眼に入って来たのは見慣れた天井。そこは自分の寝泊りしている寝室だった。
いつの間に戻ったのだろうか、と思い部屋の中に視線を移すとベッドの横に見慣れた紅い髪。
「・・・」
いつ見ても鮮やかな色だとアレンはぼんやり感じていて。
鮮やかな色が微かに動いたことで彼が起きている事を知った。
「…坊ちゃま?」
「アレン…」
アレンが口を開けば、ラビは直ぐ振り向き見たものの、少女の名前をぽつりと呟いただけでそれ以上何も言わない。それどころか彼の表情が、あまりに痛そうでアレンは心配になった。
手を伸ばし、問うてみる。
「大丈夫ですか?何かあったんですか?」
「…っ…なっ…」
アレンの問いかけにラビは酷く傷ついたような驚きの表情を返してきた。
「?」
その表情の意味を掴みかねて、首を傾げた。
「何か・・・あったのはアレンだろ!」
「あ…」
次の瞬間、ラビは思わず叫んでいた。怒りの表情を持って。
それも当たり前。彼女は自分の身に起きた事よりも、目覚めて直ぐラビの表情を気遣ってきたのだから。
けれどアレンも、ラビに言われて思い出した。さっきまで自分の身に起きていたことを。
それよりも、ラビに心配を掛けてしまってアレンは申し訳なく思った。
「ご心配かけてすみませんでした。でももう大丈夫ですから」
「けどっ・・・」
「本当に、大丈夫ですから」
「アレン・・・」
ラビはアレンの「大丈夫」という言葉が一番信じられなかった。けれど、目の前の少女は頑なな事も知っている。だから心配になる。
一通り目に入った「表面的」な怪我だけは、全て手当した。
ティキからも経緯を聞き、なにがあったのかおおよそ知っている。
けれど、問題なのは表面的なものじゃない。
「心」の、怪我。
「アレン、平気なんか?」
自分の身に起きた出来事に。
「ええ。養父と暮らしていた頃は結構頻繁にあったんですよ」
「え!?」
それは初耳だった。アレンからは良い思い出しか聞かされていないことも気づかされて、少なからず衝撃を受けたまま固まる。
「だから、平気です。ちょっと痛いですけどね」
「『平気』だなんて、嘘つくな」
「坊ちゃま・・・」
アレンの視線の先にいるのは俯いたラビ。その表情は見えなかったけれど、声が痛みを帯びていた。どんな言葉をかけたとしても、彼は自分の言葉を真っ向から信じはしないだろう。
それはもう3年も前からの付き合いだから。
家族よりも近く、お互いを知っている。
「平気じゃないだろう?だったらなんでそんな震えてるんだ」
「ぁ・・・・・・」
ラビは機微に、アレンの震えを察していた。その視線はまだ下に向けられていたが、ラビの視界にはアレンの両手が映っていたから。
「これは・・・・・・」
言いよどんだアレンは、言い訳を考えている。ラビには直ぐ判った。
「言い訳するなよ」
「・・・大丈夫です。僕、こう見えても打たれ強いんです」
「そんなの知ってる。でも打たれたらやっぱ痛いさ。今我慢する必要なんて、どこにもないだろ?」
それは暴力よりも、痛い傷を知っているから。
もう何もいえなくなって、アレンまでもがうつむいた。
その時、大広間にあるのだろう時計の音が鳴った。
日付が、変わった。
暫く経って、ラビの呟きにも似た声音がアレンの耳に届く。
「ごめん。俺の所為さ」
朝あんなことをしたから。
アレンは顔を上げてラビを見る。しかし視線は今も逸らされたまま。
そんな事言わないで欲しい。だってあれは自分が招いた種なんだから。
こっちを向いて欲しくてアレンは言い返した。
何よりそんな表情をされると、こちらまで辛くなる。
「違います。それは坊ちゃまの所為じゃないです」
「違わない。じゃなきゃ、どうしてアレンがこんなことに巻き込まれるんだ!」
「それは僕があの子を見捨てたくなかったから!いいえ!誰であろうと見捨てたり出来なかったから!」
それを教わったのはもうこの世の人でないマナ・ウォーカー。
本当の親にも捨てられたアレンを、正しく導き教えた人。
「っ・・・」
「マナが・・・養父(とう)さんが教えてくれたことを僕は実行したままです。決してラビの所為じゃない」
「それで命を落としたとしても?いいって言うのか!?」
ラビが漸く顔を上げてアレンを見つめた。
「・・・ええ。後悔はしたくありませんから」
「ばっかやろぅ・・・それじゃあ残された人間の気持ちを考えてないだろ」
「・・・すみません。でも僕が死んでも悲しんでくれる人なんてっ・・・!?坊ちゃま?」
いきなりだった。
アレンの視界にいた筈のラビは消えて、映るのは彼の着ている服の色ばかり。
ラビが抱きしめた瞬間、アレンは身を強張らせた。
それは一瞬のことだったが、ラビには解った。けれどこの腕を解くことは出来なかった。
「悲しむ人ならいっぱいいるさ。リナリーにコムイに・・・ユウに・・・いっぱいいるだろ?」
忘れてるなんて酷いさ。
「・・・すみません」
「・・・何より俺が一番悲しむさ」
「・・・はい」
アレンだって、それは同じだったが、表に出すことはしない。
それは自らを禁じている事だから。
「もう、俺が悲しむようなことするなよ」
「・・・はい。努力します」
決して約束は出来ないこと。だけれどそれがラビの望みなら叶えてあげたいとアレンは思った。
ラビが好きだから名前を呼ばないのだということも、アレンにとっての自戒だったと彼が知るのはまだ先の話。
続く
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