D.Gray-man
大丈夫?
リナリーは目の前に積み上げられた本の山に声をかける。正確にはその向こうにいるアレンにだが。
「大丈夫?」
「大丈夫ですよ。これくらいなら軽いものです」
「有難う。じゃあお願いね」
アレンは器用に大量の資料を抱え上げて見せた。
「はい。必ず書室に返して来ます」
それにリナリーは安堵し、見送る。
任務から戻ってレポート提出にお邪魔してみれば酷く忙しそうに走り回っている科学班の面々に何か手伝える事はないかと申し出てみたら資料を書室に返却してきてくれと言われて。
しかもご丁寧に迷子の常習犯のアレンがいつも立ち寄っているという書室なら迷わなさそうということに。人の役に立てるのはアレンに取って嬉しいことなので喜んで引き受けた。
「アレン、待て!これも頼む。メモに書いたの借りて来てくれ。貸出人は俺でいいから」
時折こうして科学班の蔵書棚には無いものは書室へ行って借りる。アレンが持っているのもソレで、返却期間を大幅に過ぎたものばかりだった。
「分かりました。両手塞がってるのでポケットに入れて下さい」
リナリーの脇を縫うようにしてリーバー・ウェンハムが姿を見せてメモを突き付けた。
「分かった。宜しくな」
アレンの笑顔にリーバーは嬉しそうに笑みを返し、上着のポケットにメモを入れた。
「はい」
書室に向かって歩くアレンの耳に、やけにぐぐもった声が響いて来た。それを耳にしたものは『教団の七不思議』かと思うかもしれない。
「?」
しかしそれはアレンの異名を呼ぶ声。それはだんだんと近付いて来ていた。
「モヤシィイイイ!!」
叫びは突然耳元で。
「わあっ!?」
衝撃に(とは言っても声の、だけ)アレンは本を落としそうになり、両手で上下から抑え来んだ。
アレンもさすがに声の主を振り向いた。
「何するんですか神田!僕はモヤシなんて名前じゃありません!!」
耳元で叫ぶなんて嫌みにも程があるのではないか。とアレンは怒り顔を彼に向けた。
しかしアレン以上に怒っていたのか神田はそれ以上に怒っている表情を向けて来た。
「貴様、俺の本をどこに隠しやがった!」
「…は?僕そんなの知りませんよ?」
いきなり追いかけて来て突然ぬれぎぬを突き付けられるとは思わなかった。しかも昨日の任務で結構クタクタだというのに。ツイテナイのは今に始まったことではないから諦めモードだが。
「ふざけんな!お前しか昨日来てないだろう!その前にはあったんだよ、確かに!」
「昨日って確かに行きましたけど、僕しか行ってないだなんて僕自身は知りませんよ?ていうかどこに僕が持って行ったっていう証拠があるんですか?!」
「ここに書いてあるだろう?『悔しかったら探してみろ!』と」
神田の突き付けたメモ紙は見たことがあるが、その字は自分のではないとアレンは断言出来た。ご丁寧に兎の絵が描かれている。結構絵心があるらしい。名前は書かれているはずもない。
「えー?何ですかソレ?第一僕の字じゃないですよ」
見た事有るんですか?カンダは?
アレンは事実神田の部屋に行った。つい先日。しかし入ってもラビから頼まれたもの(箱一つ)を持って行っただけですぐ出て行ったではないか。そんな行動の自分がそんなことするはずもないし、したとしても意味がない。苦手な人物に悪戯を仕掛けるのはどうだろう?
アレンの口調が小馬鹿にしたように聞こえた短絡な神田はメモを握り潰し、六幻を構えた。
彼の剣幕が一層剣呑なものに変わった。
大量の資料を手に抱えたままのアレンは後ずさる。大事な資料を抱えたままで彼の攻撃をしのげるとは思えない。
「キサマっ…一度切られたいらしいな…」
「ちょっ誤解です!本当に知りませんてば!!」
言ってもアレンの言う事など聞き入れやしない。彼はこういう人間だと知っていたが、少しばかり哀しいのと同時に腹が立った。
これではここに来た時と同じではないか。
神田の剣幕にアレンは気圧されている。そしてそのまま六幻がアレンの鼻先に突き付けられて、攻撃の為に構えられた。
「黙れ…お前がその気なら…」
「…」
アレンは黙って神田を見返した。
神田が六幻を振り下ろす直前、声が同時に二つ降って来た。
「止めなさいっ!」「ストーップ!そこまでにするさ!」
「!!?」
「リナリー、にラビ」
アレンは助かったと肩に張りつめていた空気を抜いた。教団内で緊張するのは久しぶりだ。何かと神田絡みが多いというのが納得いかない所だったが。
二人は騒ぎに駆け付けてくれたようだった。
「もう。こんな狭い所で六幻振り回したら危ないでしょ!」
「けどコイツが…」
「だからそれ書いたの僕じゃありませんてば!」
神田が握りしめたメモ紙を見せて、ラビとリナリーはそれをじっとみる。
「あ、これ俺の」
「!?」
「何だと!?」
「何ですって!?じゃあアレン君は全くのぬれぎぬじゃない」
アレンは黙って受けとめていて、神田とリナリーは声を荒げた。
「貴様…本はどうした!?ていうかいつの間に入り込みやがった!」
「あれ?あの本だったらユウの部屋のベッド脇に落ちている筈さ?ユウってそう言う所あんま見ないでしょ?」
落ちてるって言っても落としたわけじゃないからな?とラビは付け足すのを忘れなかった。入り込んだ経緯についてはさらりとかわして。
「成る程。ってラビもなんでそんな人騒がせなことするのよ!アレン君にまでとばっちりじゃない!」
アレンを気に入っているリナリーは納得したものの、アレンが迷惑を掛けられた事実というのが面白くなかったようだ。
「昔の悪戯思い出しただけなんさ〜悪かったって。あの本大事にしていたのは知ってたけど、そんなに怒るとは思わなかったんだあって」
「もうっ!18にもなって何子供みたいなことしてるのよ!ほら、神田もアレン君に謝りなさい!!ラビもよ!!」
神田はリナリーの剣幕にたじたじだった。この三人は幼なじみというだけあって、集まると雰囲気も変わる。
入団したてのアレンには些か羨ましい程。もとより昔から同じ年頃の友達というのに恵まれなかった。そのこともあってアレンは他の子供達と違って大人びた雰囲気をすでに身に付けていたが。感情の上では割り切れないものもある。
「あー僕そんなに気にしてませんから…」
「ご免ね、アレン君。神田がほんとにバカンダで」
リナリーはいやがる神田の頭を押さえつけている。まるで姉と弟のようだ。さしずめラビは兄の方だろうか?しかし悪戯が過ぎるが。
「すまんさー。ユウはバカだからこういった冗談通用しなかったみたいでアレンに迷惑かけたさね」
「いえ」
ラビの隣ではリナリーに頭を押さえられたままのカンダが「誰の所為だ!ダレの!?」と叫んでいたが、ラビは無視している。
アレンは自分の入れない空間を感じ取った。自分の知らない記憶の輪がこの3人からは感じ取られた。
さすがにこれ以上話を続けているのは苦痛になるだけだと思った。思考が暗い地下に潜ってしまう。
止めないと。
「じゃあ僕、急ぎますんで失礼しますね」
「あっ一人で大丈夫?」
「大丈夫です」
その場から逃げるようにしてアレンは立ち去った。彼等から距離を置かなければ足下が崩れ落ちてしまいそうだった。
「…大丈夫だよ」
アレンを心配して飛び回るティムキャンピーに笑って、アレンは心で泣いた。
涙は流さない。こんなことで泣いたらまたラビ辺りに子供扱いされてしまう。彼は変な所でそういうのを察知する。
「僕には…ティムもいるしね?」
ティムは話したりは出来ないけれど、誰よりもアレンの心を感じ取ることが出来て、 慰めているのかアレンの頭上に止まって羽を収めた。
「…大丈夫」
アレンは泣かない。泣く事を忘れたわけではなかったけれど。
さて、続きは?つかこれアレン受けになりますかね?(訊くな)暗過ぎた・・・続きは「9.好き?嫌い?」へ」
(改正2006.01.25)
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