D.Gray-man





好き?嫌い?


  リナリーは食堂でアレンを見つけると向かいに座った。相変わらずの食欲だったが一つだけ違った点を見つけた。それを見つける程には、彼女はアレンを観察しているつもりらしい。
「アレン君、もしかして機嫌悪い?」
「え?いえそんなことないですよ?」
 にっこりと。
 ここは『どうしてですか?』とか、聞き返さない。聞き返して墓穴を掘った例は数えきれない。
「嘘。じゃあこの眉間のしわって何?」
「!」
 リナリーに指を突き付けられて、アレンは背中を引いた。まさか直球で来るとは。
 しかし悟られてはならないとアレンは自分に言い聞かせる。機嫌が悪いのではなく、自分で自分の違和感が拭えないということを。自分のことなのに、理解できないなんて。
「ん〜なんでしょう?僕にも分からないですねぇ。食事はいつも異常に途轍も無く美味しいんですが」
 確かに食事はいつも以上に美味しく感じられた。
 異常なまでに。だからしかめっ面をしていたなんて話しても信じては貰えないだろうが。
「ふーん?アレン君にも自覚なし?」
 眉間の皺。
「ええ」
 うまくいったらしい。さらに他の話題を振ろうと考えていたらリナリーからの言葉。
「そうねぇ?じゃあアレン君が最近困っている事って?」
「…困っている事ならありますよ?」
 それで話題が逸れてくれればアレンとしても安堵出来る。
「ラビの悪戯が酷くなって来てるってことでしょうか?」
 それも事実。
 最初はまだ可愛いものだったのに、最近は度を越す悪戯が目立つ。
 困るのに。
 アレンはその浮かんだ言葉に対して、「何が困るんだろう?」と自分でも理解出来ない疑問が浮かんだ。
 気持ちが消化不良をおこしそうだった。
「え?」
 リナリーはアレンの言葉に耳を疑った。



 食事を早々に終えたリナリーは教団内にいたラビを見つけた。(多分イノセンスを発動させたかもしれない)
「ラビ、ちょっと話があるの!」
 リナリーはそう言いながらラビを連れて使われてない一室に彼を押し込んだ。しかも彼の耳を摘んで、だ。少々異様な雰囲気だったのはラビにも感じ取れた。
「わお。愛の告白?」
 ラビは茶目っ気たっぷりにリナリーを見た。しかしリナリーの表情は反対に暗い。
「茶化さないでラビ!私は真面目に話をしたいの。ここに座りなさい!」
 こういうリナリーは大抵人の言う事を聞かない。それは幼い頃からの知り合いだからこそ知っている事実。
「はいはい。どうしたん?」
 可愛い妹のお小言聞きましょ。とラビは腰を据えた。
「ラビ、単刀直入に訊くわ」
「何?」
 一体何の事?先日の事か、それとも先週のお菓子の事か?数え上げれば切りがない。
「アレン君の事、好きなの?嫌いなの?どっち?」
 リナリーは方向性で言えば直球型。だからラビにも回りくどい訊き方は滅多にしない。
 しかしラビもこれには心当たりが無かったから意外だった。
 自分がアレンを好きか嫌いか、だなんて。
 いきなり何故なんだろう?
「…アレン?」
「そうよ。好きなの?嫌いなの?」
 リナリーは丁寧に、ラビに訊き返した。
 それは要するにリナリーがアレンの何らかの違和感を見つけだしたのかもしれない。でなければこんな事訊きにくる訳はない。
「アレンに何かあったんか?」
「大アリよ。気付いてないの?ラビ」
 あれだけアレンにちょっかいをかけておいて、今頃。
 リナリーの前でもそれは時々行われていたらしい、その言い方にラビは苦笑する。
「いや…最近任務続きなのは知っているけどな。ソレ以外でなんかあったかな?」
 リナリーにそこまで言われてしまえば、ラビとしても黙っては居られない。アレンはラビにとっても可愛い後輩で、今一番気になっている子。
「気付いてないの?本気で?…アレン君困った顔していたわ。ラビの悪戯が酷くなって来てるって。この前の神田の件だって、濡衣なのにアレン君は困った顔するだけで怒りもしなかったじゃない」

 悪戯が酷い。
 アレンはそうリナリーに話したらしい。好きか嫌いかで言ったらラビのちょっかいの出し方は『好き』の部類に入っている。でなければ目の前でアレンの食べ物を奪う様にくわえたり、手を無理やり繋いで相手の苦情や抗議も無視して連れ回したりは、出来ない。もっとそれ以上にスキンシップもしているが(しかもアレンが寝ている間に)。
 本来スキンシップが好きなラビのこと。新人で年下のアレンが標的になっただけだった。
 可愛い後輩として。

 それも初めのうちだけ。
 今は違う。

 先日のラビの悪戯は、してはならないものだったとラビも反省していたが、アレンはその時どんな表情をしていただろうか?ラビの記憶の中のアレンは困ったような笑顔だけ。
「怒らなかった?」
 確かアレンは神田に対して叫んではいた。それが怒ってない?
「アレン君のことだから私達に遠慮しているんだと思うの」
「遠慮はアレンの専売特許だかんな」
 アレンは今の所教団本部の一番の新人で、一番若いエクソシスト。
 そしてリナリー達と歳が比較的近い。任務で一緒のこともある。
「四人でいる時だって、いつもよりどこか控えめな感じだし」
 時に教団内で幼なじみのリナリー、神田、ラビと一緒になることも。
 雰囲気を読んでいるのか、アレンは発言をしない事もある。
「こればかりは仕方ないっしょ?それは変えられない事だし、これから改善していくしかないさ?」
 自分達と違って大人と一緒に過ごす時間の方が遥かに多くて、子供らしさのなんたるかをどこかにおいてきたアレンだから。

「…そっか」
 だから俺は悪戯をアレンに仕掛けるのかも。
 『子供』のアレンに。ラビの中でアレンは小さな少女のイメージ。
 
「?」
 呟いたラビの声にリナリーは理解出来ないという表情を返した。
「俺、アレンの事かなり気に入っているさ」
「ラビ…」
「何?」
 リナリーが立ち上がったラビの背に声をかける。何か言いたげな表情に足を止めて訊き返す。
「アレン君をこれ以上苦しめないでね?」
「・・・分かってるさ」
 リナリーの頼みとあらば。
 ラビだって元よりアレンを苦しめるつもりじゃなかった。



「好き?嫌い?」
「いきなりなんですか?」
 ラビはいきなり部屋の扉を叩いたと思ったらアレンにそんな事を訊いてきた。
 えーとラビさん、話が見えません。しかもいっつもいつのまにか部屋に入り込んでいる人が扉を叩くなんて青天の霹靂?天変地異?
 ラビは『はてなマーク』を飛ばしているアレンに何か不穏な空気を感じ、食事に誘ってみる。人間空腹だと怒り易いというし。
 これから話すのはそれなりに真面目な話だから。
「えーと。とりあえず腹へってない?」
「すみません。先ほど済ませて来ました」
 リナリーも同席していたから証言してもらえるし、嘘はついていない。今しがた半分以上吐き戻してしまったのは秘密。
「え?マジでか!?」
 ラビはアレンの即答に落胆してみせた。なぜそこまで落ち込むのかがアレンには分からない。
「えぇ。また次回誘って下さいね。出来ればもうちょっと早い時間に」
 今日はいつもよりも遅い方だ。なぜか食欲が湧かなかった、とは言ったら皆に心配されるから口には出さない。
 任務続きで武器のイノセンスを維持する為にも食べなければならないと自覚している。だから食欲は無くてもいつもより多めに注文して食べた。
 吐いたのは食べ過ぎてしまった為だろうとアレンは軽く考えていた。
「ていうか今度アレンから誘ってくれると嬉しいさ。俺ココにいる時は部屋か書室にいるしさ」
 読みはじめると食事の時間とか気付かないんさ。
「分かりました。ラビがそれでよければ」
 アレンも何度か書室でラビを見かけているので笑顔で頷いた。
「約束さ」
「はい。…で、ラビのお話ってそれだったんですか?」
「うんにゃ。違う。ちょっと…込み入った話…」
 ラビはいつもならはっきりとか茶化す話し方で始めるのに、いつもと違ってどもっている。無意識なのか視線まで泳いでいる。
 アレンはいつもの彼等しくない言動にますます不思議がった。
「えーと、じゃあ中にどうぞ。というか食事済ませてからにしますか?食堂の時間もそろそろ閉まる頃でしょう?」
 アレンは扉の横に立ちラビを招き入れようとして、そんな時間だということに気付いた。
「えっ!?もうそんな時間か!やべっ」
「あはは。先に食堂行った方が良く無いですか?良ければご一緒しますよ?もう僕は食べられないけど」
 ラビの失態とも思える行動にアレンは苦笑した。
「いや、アレンは部屋で待ってていいさ。俺ちょっと食堂に行ってくる!」
「分かりました。お気をつけて」
 アレンの声にラビは苦笑しながら食堂へ向かって走って行った。


 しかしそれから二人が再会するのはまた別の日の事となる。

 なぜなら直後ラビに任務が与えられたから。
 可哀想な事に、ラビはアレンに会う時間も与えられないまま任務先に向かうことになる。













 続いてみたり
 続きは「
10.知らない?」です。

 

 

ブラウザは閉じて