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珍しく任務から解放された休日の、ラビの部屋の戸を叩く者に、彼は驚かされた。
「Trick or Treat!」
アレン。ラビより三つ年下の少年。
何故かしらアレンは獣の耳と獣の長い尻尾をつけて、ラビに向かい両手を広げて立っていた。
仮装らしい。
「10月31日?て今日?」
ラビは数秒そのままだったが、アレンの叫びに本日がどういう日であるかを思い出し、確認した。
「ええ。だから万聖祭のHalloweenの事です、ラビ」
ラビの言い方に、アレンはイチイチ説明してみせるあたり、神田とは正反対だなと感じさせられるラビだった。
「なんだ日本の盆のことか」
その背後から声が聞こえてきて彼の脇を通り過ぎるのは黒髪の日本人。
何故か一緒に居た神田が詰まらなさそうに呟いて、立ち去った。
「・・・お邪魔・・・でした?」
神田の無愛想にはもう慣れたもので、アレンは黙って彼の背を見送った。
ラビは神田に何かを言いかけたようだったが、伸ばされた手は宙を掴んで、落ちた。
アレンを見れば、上目遣いで気にした様子。
「うんにゃ。気にせんで。貸した本返しに来ただけだから」
「そう・・・ですか」
ラビと神田が仲が良い事はラビから話が出る事で察してはいたけど。
それでも、一緒にいる所を見てしまうと疎外感をアレン自身実感して、凹む。
確かに二人と比べてずっとエクソシストの経験は浅いし、3歳の年齢差は痛いけど。
二人の関係はアレンにとっては憧れだ。
それでもそんな関係になることは多分ないだろう。
二人が親友だろうと悪友だろうとも、自分が二人と同じになることは。
アレンは自分でも他人と一線を引いて接している自覚がある。
何より神田とは第一印象が最悪だったし、今も嫌われているだろうから。
ラビには嫌われていないらしいが真意はわからない、とアレンは思っている。
それでもそれを表面に出さないアレン。
ラビは微妙な表情を見せたアレンに気付いているのかいないのか、これまた微妙な表情を見せてアレンを見つめた。
「どうかしました?」
「ん?何でもないさ。でも困ったさね。アレンにあげるようなお菓子部屋に置いてないさー?」
部屋の中を振り返って見渡しても、あるのは蔵書の類いと簡単な飲み物。
「え?無いんですか?」
「ん。てなわけで悪さしてもいいぜー?」
ラビは両手を広げてみせた。もちろん、アレンならたいした悪戯はしてこないことを見越しての言葉だったが、彼は遠慮して後ずさって見せた。
「いっいえ、とんでもない。あくまでもお祭りなんですから、それはいいです!」
「遠慮せんでもいいのにー」
人間遠慮されるとちょっと寂しいと思ってしまうものなのか、ラビは心底残念そうにアレンを見やった。
「いえ、後が怖いですから!」
そう。悪戯好きの彼は案外意地も悪い節がある。その記憶力の所為ゆえか、相手がしたことをいつまでも覚えて話すのだ。
「へぇ…じゃあ代わりに・・・」
「ラビ、気にしないで下さい。僕もう戻りますから」
ラビからコレ以上何か言われる前にと、アレンは無意識に踵を返そうと背を向けるが、ラビの予想外の言葉に足は地に縫いとめられる。
「俺からも、Trick or Treat!」
「え?」
アレンは振り返ってそのまま固まった。ラビがふざけた反応を返すのは何も今回が始めてでは無かったし、予想も出来た。
けれどアレンの瞳に映っていたのは吸血鬼の格好をしたラビ。
「ラビ・・・いつの間に・・・」
彼の早業は神出鬼没で有名だ。けれどその身代わりの素早さを見るのは初めて。
ニコ。と彼の目が窄められて、アレンに向かって両腕を差し出した。
「くれないとイタズラするさ?」
言葉で求めるものはお菓子。けれどアレンがお菓子をくれなければおあいこということで。
「…」
アレンは彼の言葉と行動で懐に手を伸ばした。
「何、アレン。お菓子持ってるんか?」
ちょっと意外そうな言葉にアレンは苦笑して「先ほど別の方から頂いたガムでよかったら」と言い、小さな箱をラビの手のひらに落とした。
「…」
ラビはと言えば、アレンの手から落ちたガムの入った箱を見つめ、考え込んでいる。
「じゃあ僕はこれで。お邪魔しました」
ラビが止める前にアレンが歩き出した。
子供側が子供に『Trick or Treat!』をする光景。
考えてみたらちょっとおかしいと気付いてどちらかが突っ込むべきだったけれどお互い気付いていないのか気付いていながらタイミングが掴めなかったのか。
「あっアレン!」
「…?何ですか?」
大分遠く離れてからラビはアレンを呼んだ。もしかしたら届かないかもと思っていた声がすんなり届いてラビは慌てて駆け寄った。
「ラビ?」
見上げた彼の表情をアレンが見て、何故そんな顔なのかアレンは首を傾げた。
「いやっ、よく考えてみたらフェアじゃないさ」
「はい?」
ラビの返答に、アレンはますます解らない表情を返した。どうやらこの状況に気付いていないのはアレン一人だけだったとラビも気付いた。
「この場合やっぱさ」
「えーと、何がですか?」
「…」
要点を置いて説明しようとするが、アレンは気付かない。
アレンは自分ばかりが損していることに気付いていないのか?ラビは脱力し、肩を落とした。そういえばアレンがそういう人間だったということを少しばかり失念していた。
「お菓子さー?俺も何かやるからちょっと待ってろ、な?」
その単語を言えば、漸くアレンも気付いたらしい。
「え?別に良いですよっ、そんな気を使わなくても!」
止めなければ直ぐにも走り出しそうなラビに、アレンは彼の衣類の裾を握りしめ、必死に引き止めた。ただでさえ先ほど神田と仲良く話でもしていた所を邪魔したのだ。これ以上気を使わせたくは無かった。
「いいから、待ってろって!」
「いいですってば!」
ラビはアレンの掴んだ裾を振りほどき、あっという間に走り去って行った。
「あーあ。行っちゃった…」
確かラビが向かった方向は食堂が有って、そちらでは豪華な食事が並べられていたのをアレンは思い出し、恐らくそちらでお菓子をもらってくるのだろうということは考えられた。
けれど。
「えーと…どうしよう?」
ラビに『待っていろ』とは言われたものの、どこで待っているべきかと迷った。
何しろ、今いる場所はラビの部屋から暫く離れた薄暗い通路。こんな寒い場所で待つのは躊躇われた。ラビも、一体どのくらいで戻ってくるのか見当が付かなかった。
仮装して初めの訪問は彼の所しか思い付かなかった(もっとも、アレンが彼の部屋に向かう途中にファインダーの知り合いに出会い、『Trick or Treat!』を言う前にお菓子を貰ったのは誤算。)。
短期間でこんなにもアレンが人に打ち解けて、尚且つ年齢が近いのは彼だったから。
もちろんリナリーもそれは同じなのだけれど。
彼とは一番任務で一緒になる確率が高い。きっと相性もいいのだろうけれど、ラビはきっと他のエクソシストともうまく合わせることが出来るだけなのだろうとも思う。
そう思うと自分は『呪い』持ちだから、きっと他のエクソシストも気味悪がっているから組ませられないのかもしれない。とアレンはしばしばマイナス思考に陥りそうになる。
きっと皆、表には出さないだけで、『呪い』の持つ自分を…。
そうやって他人と一線引いて付き合うアレンに取って、年齢の離れたコムイやリーバーを驚かせる行為はアレンには慣れないものだった。
だから。
同じ未成年というラビにではあったが「Trick or Treat」を言ってみたくなったのだ。おかしいと感じたのはラビが吸血鬼に扮していた所からだったが。
「やっぱ…子供扱いされているんだろうなぁ…」
ラビの自分に対する態度は明らかに彼が接する教団の人間のどれとも違っていたのをアレンも知っていたから。
仕方ないから此所で暫く待ってようかな…。
実は、アレンは今一人だ。ティムキャンピーをリナリーに貸してしまったから。
ラビが何処にいったのか正確には把握出来なかったし、後を追うのも出来なかった。
することも無くて、アレンは手すりに背を預けて座り込み、ひざを抱えた。
そこに声がかかる。
「アレン君、いいかな?」
続く・・・
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