|
コムイに連れられてやってきた部屋には二人きり。アレンは仮装衣装のままだった。
「任務ですか?」
ここに呼ばれてくる理由としたら一つしか思い当たるものはなく、アレンは訊き返していた。
いつもだったらリナリーかリーバー班長からアレンへ言付けられてくる場所だったが、今日は違っていた。二人ともきっと食堂で楽しんでいるからかもしれない。
「うん、そう。とは言っても本当に簡単なものだよ。ごめんね。本当なら今日は皆休ませて上げたかったんだけど・・・」
コムイは話しながらアレンに紙の束を手渡した。それはいつもの通り。
今日は確かにハロウインだったが、それは暦の上でのこと。アレンは割り切っていたし、案外諦めも(こっち方面に関しては)早かったので抗議する気持ちはさらさらない。
「いえ、任務なら仕方ないですよ。場所は・・・ここから然程遠くないんですね」
アレンは受け取り、資料に視線を走らせながら呟く。
「うん。任務はAKUMAの集まった街に取り残されたファインダーと彼等が既に所持しているイノセンスの保護。直ぐ向かって欲しい。案内役にファインダーの一人をつけるから。情報によると居るのはレベル1だけだそうだよ」
コムイ自ら言いに来るのは珍しいものだったが、アレンは然程疑うこともなく火急の任務と聞かされて座っていたソファから立ち上がった踵を返した。
「分かりました。直ぐ支度してきます」
「宜しく頼むよ」
「はい」
コムイの言うとおり簡単な任務だとしたら、やはり一番新人のアレンが適任だと思ったのだろう。
それでも申し訳なさそうに笑みを浮かべたコムイの顔を見ながらアレンは部屋を後にした。
部屋に戻って直ぐ準備したアレンは、数分後には船着き場の地下に来ていた。
「あ・・・ティムキャンピー…」
案内役のファインダーは男性が一人で、先に船に乗り移っていた彼はアレンの声に見上げて問う。
「ウォーカーさん?」
アレンはそこで初めてティムキャンピーに預けたままだと言う事を思い出したが、今更戻ることも気が引けて、直ぐ戻れるだろうと思ったアレンは促されるままに船に移り乗る。
「いえ、行きましょう」
アレンは船を出してくれるように声を出したのだった。
その時はまだ簡単な任務だということしかアレンは知らなかった。
ラビは教団内を走り回っていた。
「なぁ、ユウはアレン見てない?」
「うるせー。名前で呼ぶな!俺は知らねぇ!」
いきなり部屋にやってきたラビに対する神田の態度は至っていつもどおりで、普通。
しかしラビは念を押す。いつもならしないことを。
「本当に本当さ?」
その言葉に対して神田はしつこい!と答えた。
「・・・アレン見かけたら俺に教えてなー?」
叫ぶ神田にラビは諦めて他を当たることにした。しかし、踵を返しつつ言葉を忘れなかった。
「あっおいっ…」
それは神田も声をかけそびれる程素早かった。
「一体どこ行っちゃったんさ、アレン」
まず最初に探したのは彼の部屋とラビ自身の部屋。それから食堂に行って行き違いになってないか、リナリーにも訊ねたがその痕跡もなく、最後に今神田の部屋を訊ねてみたが見てないという。
神田はこういうお祭りがあまり好きではないから今日一日部屋にこもるのは解っていたから。
「もう思い付く所なんか科学班ぐらいしか…ってリナリー?どうしたんさ、そんなところで」
「ラビ!」
食堂にいた筈のリナリーがラビの声に反応して振り返った。どこかほっとした表情にラビは首を傾げた。
「アレン君見つかった?」
「え?いや、まだだけど?…リナリーもアレン探してたんか?」
もしかしたら自分が訊いたことでリナリーも出てきたのかもしれないとラビは少し反省した。
「うん。ラビが出て行った後、なんだか気になっちゃって…抜けて来ちゃった。何処にいったのかなぁ、アレン君」
リナリーの視線はラビから離れて宙に。ラビはそんなリナリーを見て自分の探した場所は教団でアレンが居そうな所だった、と話した。
「後は…科学班の場所ぐらいしか思い付かないんさ。一緒に行くか?」
「うん。そうね。私も行くわ」
宙に止まっていたリナリーの視線がラビに戻る。
そうして向かった先で二人はとんでもない答えを聞かされる。
「アレン君なら任務に行って貰ったよ」
ついさっき。
「え?」
「コムイ」
リナリーは顔色を失った。胸騒ぎが的中した顔。ラビは眉を寄せた。
確か今日教団にいる人間には任務は免除されるのではなかったか?
「人の命がかかっているのに、例外は許されないだろう?」
「それは、そうだけど・・・」
「そっか・・・任務か。どうりで見つからないハズさ」
リナリーはまだ納得出来ていない表情だが、ラビは違っていてもの解りの良い返答をした。
別にアレンだけ任務に出ている訳でもないし、それはまだいい。
けれどアレンはまだ新人だ。教団に入って間もないというのに。
「兄さん。どういうこと?」
答えによってはわかるわよね?
にっこりと、リーの妹側は微笑んで見せた。そうやって微笑む分にはさすが兄妹という程そっくりなのだが。その笑みはリーの兄側を恐怖に陥れるには十分なものだった。
「り・・・なりー…落ち着いて・・・」
リナリーの笑顔が恐いとコムイは純粋に思ったが、思っただけで声にはならなかった。
そんな二人に対してラビ一人だけは冷静だった。
「仕方ないさ・・・大元帥の命令なんだろ?コムイ」
「ぇ・・・!?」
ラビの思いがけない言葉にリナリーは表情を失い、振り返る。
それなら、コムイが何も言えないのも納得できる。
けれどそれで「それじゃ仕方ない」と割り切れる問題でもない。
「ラビ、何か知っているの?」
ラビは突然何を言い出し始めたのだろうか?リナリーから見てもわかるくらい、ラビはアレンを気に入っているというのに、その発言はまるで。
「俺は・・・詳しくは知らないさ。知っているのは教団の全ての人間がアレンを歓迎しているわけじゃないってことくらい…」
リナリーが訊き返せば、ラビは沈痛な表情を返してきた。
ラビは前から知っていた表情で、リー兄妹を見つめた。その脇ではティムキャンピーが忙しなく飛び回っていて。
「ついでに言うとあわよくばアレンを−」
「ラビ!」
それ以上は聞きたくはないと、リナリーがその耳に両手をかけて塞ぎ、声を荒げて叫んだ。
コムイはリナリーの声と表情にため息をこぼした。ラビの指摘は恐らく遠からずも当たっているという意味か。コムイも大元帥達の性格を知っているだろう。
「それ以上の詮索は禁物だよ。いつ足下を掬われるか、保証出来ない」
「けど、兄さん」
コムイの諦めたような発言に、リナリーは反論する。
しかし、ラビはコムイに賛成だった。必要以上の発言をすればどんな制裁と言う名の罰が与えられるか知れない。ただ今のは口を滑らせ過ぎた結果。
「解っているさ。コムイ、俺にアレンの任務先教えてくれない?」
先ほどとは打って変わって、元来の人懐っこい笑みを浮かべてコムイに問うラビの姿に、リナリーは疑問を浮かべた。
いつだってラビはどこか知った風で、知らないフリを続けていたから。
「ラビ、まさか」
リナリーはラビの表情に気付いた。彼のいつもとは違う表情に。
「うん。こいつ、届けてやらないとアレンのことだから絶対迷子になるさ〜?」
どこか悪戯っ子を思わせる笑み。
「ティムキャンピー?」
ラビが指し示したのは彼等の周りで忙しなく飛び回っている金色のゴーレム。
ティムは先ほどから落ち着かない状態になっていて。
それもアレンがここを経ってしまった直後だということに気付いたのはつい今さっき。
「ラビ…」
「心配ないって。俺の鎚ならひとっ飛びで目的地に辿り着くさぁ?」
ラビは不敵な笑みを浮かべた。
「でもブックマンの許可がないとだろう?」
「すぐ戻ってこれるっしょ。コムイから言っておいてくれれば大丈夫だって」
ラビは飄々と返した為、コムイはそれ以上何も言い返せない。彼がここまで言うのも珍しいから。
「仕方ないな。解ったよ」
続く・・・>>3
|