D.Gray-man


真っ暗闇の中(4)




壁から突き出た杭にぶら下げられ、アレンは霞がかった意識の片隅で二人のやりとりを眺めていた。左腕をだけを杭で壁に打ち付けられた挙句、身体は鎖で雁字搦めに絡め取られていた。
 <なんだか以前もこんな目に遭った気がする・・・>
 そんなことをつらつらと考えている最中、神田とラビの二人はアレンのいる部屋から遠ざかっていった。
 
 声をかけようにも、こちらからむこうに声は届かない。
 助けを待つか、自分でなんとか切り抜ける他方法がない。

 アレンがそんな事を考えているのをお見通しなのか、ぽつりと同室に居た女性が呟く。

「エクソシストの仲間さん、行っちゃったね」
「・・・」
 アレンは二人の予想どおり、アクマと一緒にいた。
 とは言っても、アレンが油断して逃げ出せない状況に陥ってしまったから捕らわれの身が正しい表現。
「寂しい?」
「そうでもないですよ。僕は二人を信じてますから」
「ふーん」
 アクマはアレンが寂しそうに見えたのかもしれない。そんな声をかけて来た。
 アレンはそんなアクマの言葉を聞き、やはりレベル1ではない事を知る。
 レベル2以上でなければ、こんな感情のある会話は出来ないだろうから。
 アレンは気になっていた件を訊ねる。
「あなたはここに来たファインダーの人達をどうしたのですか?」
「ふぁいんだー?この屋敷に侵入した人達なら、全部殺しちゃったよ。皆遊んでくれないんだもん」
「・・・」
 やはり、そうだったかとアレンは唇を噛み締めた。
 殺された人は戻らない。ラビ達から偶然引き離されて、この部屋までの途中見かけた骨や衣類はやはりファインダー達のものだった。

 目の前のアクマの女性に捕まったのはその直後だ。

 彼女とは言ってもその中に入っているのはこの屋敷の子供らしいのはアレンの左目で判別出来た。
 けれど、屋敷の子供が亡くなったのは屋敷の主人であるシューレン氏の一人息子だった筈。
 泣き崩れながら『息子の霊を成仏させてやって下さい』と懇願してきた主人の表情に引っかかりを感じながらもアレンたちは屋敷に足を踏み入れたのがこの始まり。
 目の前の女性がこの屋敷の人間となんらか深い繋がりがあることだけは分かった。
 何しろ、口調が幼い子供のものだったし、アレンの見ている目の前で遊びにも似た行動を始める。アレンの考えが間違っていなければ女性の背後に映る元人間だった骸骨はこの屋敷の子供のもの。
 けれど何故その子供がこの女性の身体の皮を被っているのかがわからない。
 もしかしたら、という憶測はあるけれど憶測だけに口には出せない。

 <せめてラビや神田が少しでも情報を得られれば何か分かるんでしょうけど>
 今も二人の姿を映像として見ているのは自分の能力だと親切にもアクマは話してくれた。
 
 二人が自分達のいる場所から遠ざかっていくのをアレンは見つめながら策を練る。
 二人をアテにしてはいられない。
「あの二人は仲良しさんなの?」
「・・・」

 ラビだって何も神田と気が合うというわけではない。
 むしろラビが合わせている感がある。
 それでも二人の仲は周りから見ても『仲良し』で通っている。(神田は否定するかもしれない)
 <ちょっとだけ羨ましいって二人に言ったらどんな反応しますかね?>
 幼い頃から大人に囲まれて生きて来た。同じ年頃の子供と話したことは指折り数える程。
 <修道院に居た時だって、ねぇ>
 アレンの記憶の中にはこれと言って子供同士の楽しい時間は残されていなかった。
 皆アレンの左腕の「色」を見つけると、すぐさま『バケモノ!』と罵り、逃げていった。
 <あ、でも一度だけなら僕の「色」を見ても逃げなかった子が居た>
 もう幼すぎた為に顔ははっきりと思い出せないが。
 

「白髪のエクソシストさん。何がそんなに悲しいの?」
 項垂れた儘で画面を見ていたお陰で、そう思われた。
 アレンが面を上げて、
「悲しいわけじゃありません。いい加減これを解いて欲しいのですが?」
 やや強めにアレンはお願いしてみた。
「解く?なんで?」
「や。だから」
 アレンの言葉は素直に聞き入れられない。
「どうして解かなきゃいけないの?僕が悪いの?お母さんが僕にしたように、しただけなのに?」
 むしろ子供の言葉はアレンを逆に攻めているようだ。
「 ・・・?君のお母さんが?」
 一体なにを君にしたというの?

 子供の言葉は正直で残酷だ。
 その言葉で嘘で固められたものが剥がれ落ちて行く。




「いっぱいなぐられた。痛いって言ってもやめてくれなかった。寒くてもおなかが空いても食べるものさえもらえなかった」


 だから、僕は死んでしまったの。
 けれど本当のお母さんが僕を生き返らせてくれた。


 それだけ。



 続く→5へ
 
 

 

親は子供を愛するものです

 

 

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