D.Gray-man


The lost child 4






 
 矛盾だらけの関係


 二人の間に落ちるのは沈黙ばかりではなかった(特に神田側のが)。

「えっと・・・」
「・・・」
「あの・・・神田?」
「・・・」
 アレンの呼びかけに、神田は振り返る。無視しないところは進歩したといえるかもしれないが、状況が状況だ。
 まさか目が覚めたら自分の部屋で、苦手としている神田が目の前にいるのだから緊張しない方がおかしい。
 アレンは今自分が「女の子」とばれない様に胸にサポーターをつけてはいるから神田は気づいていない筈。だから安心しても良い筈。アレンにとって神田は苦手な人種だったが嫌いではない。
 ただ、女の子と解った時に態度を変えられるのが恐ろしい。逆にラビは、初めからアレンを「女の子」と見抜いたから態度が変わっていない。

 だが神田の表情は相変わらず剣呑だ。
 それは何もアレンに対して今始まったことではないと知っているから、アレンは内心むっとしながらもいつもどおり接していた。
 そう、いつもどおりの態度だ。

 なのに、何故自分は怖がっているのだろう?
 アレンは沸き起こる不可解な恐怖に立ち向かうべく口元を引き締めた。
 理由も分からないままその剣呑な態度を向けられて、仕方が無いと引き下がるアレンでは無かった。

「あの・・・何か怒ってます?」
「・・・」
 訊ねれば返されるのは、いつにもましてキツイ視線。
「っ・・・」
 神田の怖い視線に、アレンはたじたじになる。

 書室で寝ていた筈の自分が今、与えられた自室に寝かされていた事に気付いて、何故、どうしてこのような状況に陥っているのか目の前の黒髪美人に訊こうにも相手は無愛想だけでなく、怒りのオーラさえ纏っているのだから、アレンが躊躇するのも頷ける。
 この場合、アレンは神田の八つ当たりのとばっちりを受けているだけに過ぎないと分かるまでまだ暫くの時間が必要だ。

「僕を運んでくれたのは、もしかして神田ですか?」

 微かに揺られている間、神田の声を聞いた気がするから、アレンは言ってみた。
 神田はまたもやもの凄い形相でアレンを睨み付けた。
「だったらどうなんだ?あぁ?」
 知る人が見たらまるヤの人だと表現してもおかしくはない神田。
 しかもガンを飛ばしている。アレンはますますたじろいだ。
「えーとじゃあお礼を言わなければですね」
 肩を竦めてアレンは苦笑してみせた。
 神田の事だから、おそらく不本意な形で自分を運ぶ事になったんだろう。彼の性格を考えるとまず自発的に自分を運ぶわけがない。彼だったら運ばずに起こす方法を選択するに違いないのだから。
「要らねぇ。俺は押し付けられたお前を運んだだけだ。それに、モヤシなんぞにお礼言われた所で嬉しくもなんともねぇしな」
「・・・」
 神田はうまい具合にアレンの神経を逆なでする言葉を吐き出すが、アレンももう慣れたものでこめかみに引きつった青筋を浮かべたが、そのほおには笑みが浮かんでいた。あとちょっとで黒いアレンが降臨だったが。
 そしてやはり神田は自発的に自分を運んだワケではない事をアレンは知った。
「まぁ神田がそういうのであれば、僕は一向に構いませんけど。その嫌いな僕の事を運んだなんてよほどその人に弱みでも握られているんですね、神田って」
「なっ・・・!?」
 饒舌に、アレンの口から滑り込んだ内容は、神田の神経を更に逆撫でするのに功を奏した。
「違うっラビに弱みなんて握らせたら一生笑いもんじゃねーか!」
 かかった。と思ったのはアレン。アレンはもとより神田の行動に疑問を感じて、誘導尋問してみたのだ。
 ラビなら、確かに彼の性格を知り尽くしているから、アレンも納得出来た。
 どうやら神田の台詞で、自分を見つけたのはラビが初めてらしい。ラビがなんらかの方法で神田に眠っている自分を運ばせた。ここまで推測は出来た。
 けれどラビは何故自分で運ばなかったのかが、今度は気になった。
 彼はアレンの本当の性別を『秘密にする』と約束してくれた数少ない人間だったから。
 
「あ、じゃあラビが書室で寝ていた僕を見つけたんですね。でもラビも水臭いです。どうせなから起こしてくれれば良かったのに」
 その後自分で戻ってこられる自信がアレンにあったわけではなかったが。

「あ?そんなの知らねぇよ。ただあいつは食堂の前で眠ったままのお前を押し付けて来た。俺はそれしか知らん。」
 先ほどよりは怒りが幾分か解けたのだろう。神田はアレンの部屋内を見渡して説明して見せた。
 本当は彼が今何処に居るのかは知っていたが、わざわざ教える気は無かったらしい。

 長い彼の黒髪がアレンの目の前で舞う。美丈夫なのに、性格で損をしているに違いない神田はアレンに取って羨ましくさえ思えた。彼はその他人を寄せつけない雰囲気ながらも、その人格を好いている輩は多いのを知っているから。

 自分とは正反対の人間。

 自分はこの容姿と腕の所為で人には疎まれ、蔑まれもした記憶がある。考えれば考えるだけ思考の泥沼に嵌ることを知っていたので意識を切り替えることにした。




>>To Be Continued

神田は馬鹿なのでアレンの性別には気づいてません。
だからアレンは怖いのです。態度がいきなり変わったら、と思うと