白い子は眠り姫となる
もともとアレン自身の部屋から直接科学班の部屋に行くのには迷わない。
「早くティムを引き取って食堂に行こう…っと・・・?」
アレンが空腹に勝てず鳴ってしまったお腹を押さえながらその扉を開けた時に視界いっぱいに入っていたのはコムリン2号だったか、3号だったか?
白いなにかが視界を覆い尽くした直後、アレンの意識は途絶えた。
「…っぱり、コムイの所為さ!」
「う〜ん。ごめんねぇ。僕もこんなことになるとは思わなくて…」
次に気付いた時、アレンの耳に入って来たのはラビとコムイの声。何事か言い合っているのはアレンにも気がついた。けれど内容は把握出来ない。ただ分かるのは口調からして、ラビがやけにムキになっていることだけだ。
アレンは瞼を開けようと思ったが、まだ重くて自分の意志では不可能なことを知る。
「けどアレン君もタイミング悪かったね。コムリンの倒れて行った方向に入って来るなんて」
「アレンが来たのは偶然じゃないっしょ?もとはと言えばコムイが取り上げたゴーレム迎えに来ただけなんだし」
話の内容から察するに、ラビは自分がここに来た理由を知っているらしい。そういえば先ほど書室で見つけたのはラビの筈。
アレンがそんなことを考えているとラビが何故ティムキャンビーを借りたのかコムイに問いただしていた。アレンの目蓋は依然降りたまま。
そんな中、ラビの台詞に面白くないとコムイが反論する。
「取り上げたなんて人聞きの悪いこと言わないでよね。ちょっとティムキャンビーの特殊能力が使えないかなと思っただけなんだけど」
「何にさ?」
ラビの問いにコムイは楽しそうに応える。
「コムリンにV」
コムイの返答に、ラビが脱力するのがため息で分かった。
アレンもその返答には脱力しかけたが、身体は以前動きが取れないままなので二人の会話に耳を傾けるしかなかった。
「コムイ室長もラビもその辺で、それよりアレンを手当しないと」
もう一つ、声の主はリーバーだ。
「そだな」
声と同時にラビの気配が近付いて来たのが分かった。身体が浮く感覚も。
「…ぅ」
「…あ。目ぇ覚めたんか」
アレン。と呼ぶのは彼女を抱き上げていたラビ。彼はアレンを横抱きにしていた為、瞼を開けてすぐ視界に入ってきた。彼の頭の上にはティム・キャンピーが乗っていた。
「ラビ…」
どうやら身体を動かされた刺激に、アレンの身体の方が覚醒したらしい。
ラビもどこかほっとした表情を見せた。
「ダイジョブか?どっか痛いとことか無いか?」
「…何だか凄くおでこと頭が痛いんですけど…」
ズキズキしてます。
「どれどれ?」
ラビの質問をアレンが素直に返せば、別の人間が彼女を診にやって来た。
「…リーバーさん」
もう一人の人間、リーバー・ウェンハム=科学班班長はアレンの頭を軽く撫でて触診した。
「あーこりゃたんこぶかな?ラビ、そっと運んでやれ。この分だと暫く起きれないぞ?」
「うーん。やっぱそうか」
ラビは気付いていたらしい。アレンは未だ訳が分からないといった表情。確かに聞こえた会話ではコムイの作ったロボットの所為で気を失ったというが、扉を開けた直後から記憶がない。なので、どういう状況になっていたのか推測しか出来ない。
「?」
ラビは黙ったままのアレンを見、安心させる為かどうか分からないがにっこりと微笑んで見せた。
「んじゃ、俺連れていくわ。報告書はそれで再提出なしな?」
「…あの、僕歩けますよ」
今どうなっているか自分では見えない。これ以上迷惑は掛けられないと思っての発言だったが、ラビに却下される。
「まぁまぁここは大人しくお兄さんの言うことに従っておけよ」
「そうそう。この大きさだと起き上がった時が恐いぞ。大人しくしとけ」
しかもリーバーにまで言われては大人しくするのが普通だったが、アレンは違った。
「平気ですよ。降ろして下さい、ラビ」
「…無駄だと思うけど?」
こう言いはじめるとアレンは頑固だったのでラビは大人しく降ろしてやった。
「無駄なんかじゃな…いっっ!?」
アレンは地に足をつけた直後、頭を突き抜ける痛みと目眩に立つ事は出来なくなり、そのまましゃがみ込んだ。
「だから言ったんさ。あのコムリンに押し潰されて無事だった方が凄いとは思うけどな」
ラビはこうなる事を予想していたらしく、再びアレンを抱き上げた。
「…っ」
アレンはラビから訊かされた事実らしき説明に更に驚いたが、今それよりも痛みが上回っている。
襲い来る痛みを抑えるので精一杯だ。
「…まあ仕方ないね。じゃあアレン君を宜しく」
「頼むな、ラビ」
コムイがため息を零しながら見送り、リーバーは苦笑しつつ見送る。
「任せてー」
「…っっ」
頭を抑えたままのアレンに苦笑しながらラビは科学班を後にした。
科学班の部屋を出て医療所の場所へ向かって。
上からラビの声が聞こえてくる。ティムはラビの頭から移動して、肩に乗ったまま。
「にしても今日はアレン寝ている時間長いさ」
「別に好きでやっているわけではないんですが・・・」
まだ少し喋る声が頭に響く為、奥歯を噛み締めないように声を出す。
「まぁ俺としてはアレンの寝顔が見れるから役得なんだけどさ」
「もう…何ふざけたこと言ってるんですか…そうやっていつも人の顔に落書きされる身にもなって下さいよ」
人の寝顔を見て何が『役得』なのかアレンには分からなかった。
ラビの意はもっと別のところにあったが。
「最初の頃だけだろ?今は落書きしてないさ?」
「それは…そうですけど」
本来アレンは他人に触れられるのは苦手だった。だからラビがやたらスキンシップを図ってきた初めの頃は酷く戸惑っていたのを覚えている。
なのに今はこんなにも傍にいるのを許している。
何でだろ。
人懐っこい人だからといって、そんな簡単に気を許せる訳はない。
確かにラビは秘密を守ってくれているから信頼している。
気の許せる数少ない友人だったし、アレンも彼といるとほっとする。
けれど本当にそれだけ、だろうか?
「ん?どしたんさ、アレン」
「何でもない…です」
考えたところで答えは見つからない。アレンは考えるのを止めた。
そういえば。
アレンはふとさっきの事を思い出してラビを見上げた。
「なに?」
ラビは直ぐにアレンの様子に気づき声を掛けてきた。
「神田から聞きました。ラビ、僕を書室で見つけた時起こさなかったんですか?」
「・・・あぁ。そのコトか」
ラビは何故か笑みを浮かべた。その表情には幾分寂しさが含まれているのを見つけアレンは不思議に思って首を傾げる。
「なんで?」
「・・・あんまり気持ちよさそうに眠っているから起こすのは気が引けただけさ?」
「そうなんですか?」
アレンはその彼の言葉を信じるわけではないが、信じないわけでもなかった。
おそらく半分嘘で半分本当だと、アレンは彼の表情を見て判断した。
「うん。ホント」
ほら、やっぱり。
恐らくコレ以上訊いても本当のことは話してくれないだろう。
アレンはラビの『言いたくない』という表情に口を噤んだ。
二人の前にあるのは両開きの扉。
医療班のいる場所だ。
「さて、着いた。さっさと治療して貰って休もうぜ」
「…そうですね…あっ!」
「どしたん?」
ラビの言葉にアレンは忘れていた事を思い出す。いきなり声を荒げたアレンにラビは吃驚したが彼女を取り落とすことはしなかった。
「っ…僕、どのくらい気を失ってたんですか?」
大きな声を上げて少し痛がっていたアレンはそんな事を訊いて来た。
「んー…そうだな、正味30分くらいさ。それがどうかしたんか?」
ラビの問いにアレンは神妙な面持ちで呟く。
「…食堂行きそびれました…」
今から治療して貰っていたら、恐らく食堂は閉まる。そういう時間だった。
「アレンらしいさー。手当終わって許可降りたらジェリーになんか見繕ってもらお?」
「う…そうですね。お願いします」
実にアレンらしい発言にラビは安心し、医療所の扉を開けた。
>>To Be Continued
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