D.Gray-man


秘めコイ 第2話





 天使は子供になって生まれ変わった




「良かったさ、アレンがそう言ってくれて。ウチで働く人らって基本的に長く続かないんだよな、何故か」
「はぁ…」
 アレンはラビがこの家の跡取りと聞いて初めて驚きを露にした。
 それに屋敷に住んでいるのはブックマンという主人とラビの二人だけ。
 通いでハウスキーパーを一人雇っているものの、毎日来るわけではなかった。
「ミランダは後数十分もしたら来ると思うし、詳しい仕事は彼女から聞くといいさ?」
「分かりました」
「ん〜で、アレンていくつ?」
 ラビはアレンをつま先からてっぺんまで眺めやり、そんな事を訊いてくる。その視線に深い意味はないのだろう、ぶしつけな視線と質問ながらもアレンは不快に感じる事はなかった。
「えーと12歳くらいです」
「あ、俺お兄さんだな。俺15歳。くらいってことは…」
 言いにくいのだろう質問はさすがに躊躇して、ラビの口からそれ以上発せられる事はなかった。
「ええ。僕物心がつく前に、実の親に捨てられたんです」
 拾ってくれた「マナ」が先日亡くなった事は伏せた。そんなことを言って目の前の優しい少年の同情を引くつもりはなかったし、口に出してしまえば再び悲しみに襲われそうになるから。
 アレンの表情と口調を汲み取ってくれたのだろうか?ラビは「そっか」と短く答え、アレンの頭を撫でた。
 ラビは何故このような子供を捨てたのか理由までは分からなかったが、少しばかりショックを受けながら、何か理由があったのだと自分で自分を納得させることにした。
 その時、アレンがまだ何かを隠しているとは思いもしなかった。
 隠しているのではなく、話すタイミングというものを掴みにくかっただけなのかもしれないが。



 その後ほどなくして出勤してきたミランダに自己紹介と仕事内容を話し、さて着替えはあるかと訊かれてラビが「ちょっとばかり大きいと思うんさ?」と差し出した仕事用の服に腕を通しながらアレンはどうしても露出してしまう左側の腕をどうしようか悩み出した。
「アレン?」
 何しろ急ごしらえだ。一番小さな服といってもアレンの年齢は12歳ぐらいで。アレンの体格は実年齢よりも低く見える。後で子供サイズの作業着(といってもメイド服だが)を発注しておかないとな、とラビは考えた。

 ラビの呼ぶ声にアレンは慌てて扉に向かう。
「着替え終わった?」
「え?あっあの…」
 アレンは扉の陰に身体を隠したまま出て来ようとし坊ちゃまない。
「?何?やっぱ大きすぎた?」
 ラビの申し訳なさそうな声にアレンは首を横に振り、「違うんです。それは仕方ないですけど」と、やはり扉から身体を離す事は無かった。
 その言葉にラビはアレンが言いにくそうにしている何かを感じ取り、彼女から話し出すのを待つ事にした。

 その間猶に数分。

「…えと、出来れば長袖ありませんか?」
「!?なんさ、そんなことならもっと早く言ってくれれば良かったさ?」
 なんで?という表情でラビが問えば、アレンは真っ赤な顔で俯いて、それこそ小さくなりながらぽつりと話す。
「僕の左腕、大きなやけどが有って…見ると気分悪くなりますから…」
 ラビはやっとアレンがいいづらそうにしていた訳を知り、そんなことを話させてしまった自分を恥じた。少女が身体に大きな傷を負っている事自体恥ずかしいことになのに。

「ごめんさ。すぐ持って来るから」
 とにかく代わりの服を用意しようとラビは声をかけながら駆け出した。
「いえ、僕の方こそ最初に話せば良かったです」

 その後、ラビは仕事をしていたミランダに頼み、長袖を出して貰ってアレンに渡したことで事なきを得た。
 さすがに気になる女の子に出来る事ではなかったから、こんな時ミランダが居てくれて助かったとはラビの胸の内だけの思い。


「あのっ…ありがとうございました」
「んにゃ、俺こそ気が利かなくてごめんさー」 
 長袖に着替えたアレンが出て来た時、思わず左腕に視線が行ってしまったのはアレンも気付いて。
 けれどここで仕事をしていく以上隠し立ては出来ないとラビを見上げた。
「あの僕の腕、物心付く前に既にあったらしくて…だからあまり見ない方が良いかと思います」
 それは精いっぱいの言葉。自分はもう見なれたけれど、他人がこの腕を見て良い顔をしないのをアレン自身良く知っていたから。どうせなら見ないに越した事はないと、夏でも半そでを着る事はなかったし、手袋を外す事はなかった。

 なにより同情を引くのはアレンが嫌だったから。

「うん。俺なら気にしないさ。うちのじじいもそういうの気にしないから大丈夫だって!」
「…はい」

 アレンはラビの笑顔に嘘がないことを知り、ほっと安心した。

 これからここでアレンの新しい生活が始まるのだ。
 この分なら長くやっていけそうだとアレンは内心ほっとしたのだった。










 続く→3へ
 
 

 

アレンの左腕のイノセンスはそのままです。設定を少し変えてますが

 

ブラウザは閉じて