D.Gray-man


秘めコイ 第3話





 子供は少女になる




 アレンがそこで住みはじめてから屋敷の主人と有ったのは数カ月後のこと。
「ほぅ。おぬしがクロスの言っていた子供か」
 ラビの言う「じじい」とは常日頃どんな人物なのだろうかとアレンは想像していたのだが、意外に老人ぽくて、小さくて、ちょっとばかり奇抜な容姿をしていたなどとはアレンの胸の内だけの感想だった。
「はい。アレン・ウォーカーです。宜しくお願いします」
 深々とおじぎをして、失礼のないようにアレンはふるまってみせた。
 何しろ彼はこの屋敷で一番偉い人物なのだから、機嫌を損ねて職を失ったら今アレン自身非常に困ることになる。
「そうか。この家には大分慣れたか?」
「はい、坊ちゃまにもミランダさんにも良くしてもらってます」
 ハキハキと話すアレンにブックマンは少しだけ笑みを返した。そこでアレンの手に嵌った手袋に気付いた。
「ん?その手袋は…?」
「あっすみません!こっこれはー?」
 さすがにそこまで隠せは出来なかったとアレンが手袋を外すと同時に声がかかる。
「アレンの手には火傷があるんだ。だから俺が許可したんさ。いいだろ、じじい?」
「坊ちゃま…」
 ブックマンの後方にいつのまにか入ってきていたラビがちゃっかり座っていた。
「…そういう理由なら構わない。ただどんな火傷か良ければ見せては貰えまいか?私は医者も兼ねてやっておるのでな」
 ブックマンはラビを初めから知っていたのか一瞥だけするとアレンに向き直り、手を差し出した。
「あ、はい。わかりました…」
 アレンはそういう意味合いでなら仕方ないと了承する。正直誰であっても見せたくはなかったが。
 しかしラビを一瞬だけ見、ブックマンに訊ねる。
「傷は全部、見られますか?」
「そうじゃな。出来れば…小僧、出ておれ!」
「うわっ!」
「!?」
 ブックマンもアレンの意図を汲んだのだろう、素晴らしい蹴りを披露して見せて、ラビを室外に追い出してしまった。
 アレンもその、とても老人には見えない動きで、吃驚する他なかった。




 暫くラビは閉め出しを食らっていたが、診察が終わったアレンは部屋から出て来てラビにブックマンからの伝言を残して立ち去った。

「お館様が坊ちゃまに話があるそうです」
 その伝言を元に、ラビはブックマンがいる部屋に戻る。

「…他人に肩入れするなど、いつ私が許した?」
 小僧。

 それはいつもの小言に近いのだろう、ラビはその眼光の強さにも臆せず言い返す。
「そう?俺はただアレンにはすぐ辞めて欲しくなかっただけさ?だいたい一か月と経たない内に何人辞めて行ったっていうんだよ、じじいが陰でお姉さん達にいろいろ言って辞めさせてるの俺知ってんだかんな!」
「口が過ぎるぞ!お前は私の跡を継ぐと決めた時に了承したのではなかったのか?」
「それとこれとは別問題!ミランダだってコムイの紹介じゃなけりゃ雇わなかったんだろ!」
「バカモン!」

 喧嘩はエスカレートしていく。ラビもいつもは冷静なのにこればかりは譲れなかった。
 いつもだったら、ラビも黙って抗議を飲み込むのに。


 相手がアレンだから。




 結局、ラビは散々殴られ、反省を促す為課題をぎっしり増やされて悪態を吐きながら自室への道を歩く。
「坊ちゃま?どうされたんです、そのお顔…」
 途中見つかるとまずいと思っていたのに、幸か不幸か自室の近くでアレンに見つかってつい舌打ちをしてしまった。
「あ…ちゃー…見つかっちゃったさ?」
「もしかしてお館様に?こっちに来て下さい。手当します!」
 アレンは慌ててラビの背を押して自室へ促し、救急箱を急いで持って手当を始めた。

「うわ。痛そう…少ししみますけど我慢して下さいね」
「うん。大丈夫さ。慣れてるから」
 アレンが確認の言葉を述べればそんな返事。アレンは自分が受けた傷のように痛い顔をして顔と身体に受けた打撲の痕に湿布を貼って行く。
「ありがとさ〜アレン居てくれて助かったさ」
「いえ…けど本当にこんなこといつもなんですか?」
 アレンは腑に落ちない表情をしていたが、ラビは首を振る。いくら跡継ぎで厳しい教えであっても限度というものがあるだろう。
「うん。アレンが気にすることじゃないさ?俺は慣れちゃったからな」
「そう…ですか」
 本当の理由なんて絶対に言えない。きっとアレンを傷つけるし、知られたらアレンはこの家を出て行くだろう、間違いなく。
 そんなのきっとラビは一生後悔するから。
『だって手放したくないって思っちゃったもんな』
 それは初恋なのだろうか?ラビにはまだ分からない。似たような感情ならいくつも感じたことがあるから。

『俺が守るから』
 それはまだ言ってはいけない言葉だと思う。
 アレンはまだ12歳だ。
 それに自分達が生きて行く世界に彼女を巻き込みたくはない。
 まだ守れる程自分は強くないから。

「坊ちゃま?」
 じっと自分を見つめているのに気付いたアレンは訊ねる。何か顔についているのだろうかと。
「うんにゃ。何でもないさ。アレンは優しいさね」
 これ以上心配かけるわけにはいかないだろう。ラビは服を戻してアレンに礼を言う。
 ついでに頭を撫でる。これはアレンが好きそうだと思ったから。初めて会った日からずっと日課みたいなものだ。事ある毎に撫でて、自分をアレンの記憶の中に植え付けて行く。
「そんなっ坊ちゃまの方が余程優しいですよっっ!」
「いやいやいやいや…」
「もうっ子供扱いしないで下さい!」
 アレンが何か言い返せば返す程、ラビの撫で方は激しくなる。アレンにとって嫌いなものじゃないが、まるで子供に対する行為みたいで時折切なくなる。
 マナを思い出してしまうから。
 もう何も大切なものは作りたくないのに。
「坊ちゃま!…?」
 これ以上踏み込まれたくなくて、刷り込まれたくなくてアレンは声を荒げた。
 しかし声を荒げた直後、アレンはラビに抱き込まれた。
「ぼっ…ちゃま?」
「悪りぃ。少しだけ、な」
「……」
 お互いがお互いを必要とし始めていたことなど、既に分かりきっていても。
 それはまだ二人とも認めたくなかった。











 続く→4へ
 
 

 

先は長そうです(苦)

 

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