D.Gray-man


秘めコイ 第4話





 少女と女性の境界線




「ん・・・もう朝?」
 メイドとして働くアレンの朝は早い。その館の跡継ぎであるラビはそんなに早起きしなくても良いとは言ってくれるものの、もう習慣になっていた起床時間はそうそう変えられない。
 例えその館の住人がたった二人でも、その主人が1年の半分以上を留守にしていようとも。

「・・・あれ?」
 真っ白なシーツの間に赤い色が混じっていた。

 そして跡継ぎの彼が朝寝坊で、寝ぼけてメイドである自分のベッドに潜り込んでこようとも。

「〜っもう!またですか!」
 アレンが目を覚ますと そこにあった赤い髪の色に、何度目かになるか分からない声を荒げた。
  
    


「だって寒かったんさ〜」
「だからって僕のベッドに入ってこなくても。いくらでも南向きの部屋が余っているじゃないですか!」
 アレンがこの屋敷に来てもう3年の歳月が過ぎた。
 少女は15歳になったし、ラビは18歳。もう立派なお年頃といっても差し支えない。
 しかしラビは常識で出来る範囲を越えていた。
「え〜?人肌の方が温かいっしょ?」
「・・・坊ちゃま・・・もう何回目ですか?」
 潜り込むの。

 アレンは朝から痛くなった頭を抱えて考え込んでしまった。
 もしかしたら働き人が長く続かないのはラビに問題があるのではないかとさえ、最近は思えてきた。頭を抱えるアレンに反してラビはケロリとしている。異性とつきあったことがないアレンでもそれはちょっと問題なのではないかと理解出来るのに。
「何回目だなんて数えてないさ。それに最初の頃はアレンだって嬉しいって言ってくれてたし?」
「それはもう3年も前のことじゃないですかぁ!今はもう違いますよ!」
 アレンがこの館に連れて来られた当初、暫く独り寝に慣れなかった彼女を心配してラビが夜やってきてくれて一緒に添い寝をしてくれた。
 やましいことは一度たりともしてないとアレンは断言出来る。ただふざけあって兄弟のようにじゃれあったことは幾度もあったけれど、いつしか丸みを帯びた自分の身体はラビとは違うものだと意識させられてから、アレンは「寂しい」とは口に出来なくなってしまっていた。
 もう子供の時のようにじゃれあうことは許されないのだと、アレンは自分で悟ったから。

 けれどラビは違うというのだろうか?

「ほんとに?」
 ラビの隻眼の瞳は翡翠を薄くしたように透明で、見つめられれば人の心を見透かすような気分にさせられた。
 アレンも現にどきりとしてしまった胸の鼓動を抑えながら「着替えるんで出てって下さい!!」と言って結局誤魔化して、ラビの問いには答えなかった。

 確かに一緒に眠るのは心地よい、けれどそれ以上に切なくなるから。




「よぅ。モヤシ」
「アレンです!」
 朝食の片づけと洗濯を済ませ、館の庭掃除をしていたアレンに声をかけたのはラビの親友で幼なじみの神田ユウだった。
 神田は3年前、アレンを初め見、第一印象からだろうか、そのあだ名でずっとアレンを呼んでいた。アレンは当初からそのあだ名を嫌がり、彼に名前を呼ばれると瞬時に叫び返す。
 さすがにそれが3年も繰り返されるとこれが普通の挨拶だとさえ思えた。
「って神田サマ、今日も呼ばれたんですか?」
「ああ。・・・お前いい加減その呼び方止めないか?」
 親友である神田は事ある毎にラビに呼ばれていた。
 一般のメイドがしるところではないから聞きはしなかったものの、神田と何故か仲良く(?)なってしまったアレンは彼からラビとの話の内容を聞かされることもたまにある。
「神田サマは神田サマです。僕はそうお呼びするしか出来ませんのでご了承下さい」
「チッ・・・仕方ねぇか・・・所でお前、そんな格好で寒くないのか?」
 外は雪が舞っている。だから神田は上着の代わりに厚手のコートとマフラーを羽織って来ていた。
 なのに、アレンはメイドの作業着に薄いカーディガン一枚。
 いくらなんでも寒そうだと、憎まれ口しか出ない神田は見兼ねて声をかけると、アレンは酷く驚いた表情をしてみせた。そして微笑む。
「大丈夫ですよ。僕寒さにはこうみえても強いんです。それにミランダさんが長期休暇に入っている以上、僕が風邪引いて休むわけにもいきませんし」
 ミランダは個人的な理由で長期休暇をとっていたから、今館の仕事はアレン一人できりもりしていた。
「なら、いいけどな。風邪引くんじゃねぇぞ?」
「はい。ありがとうございます。意外に優しいんですね。神田サマ?」
「うるせぇ」
 アレンは初めて聞いた気遣いが余程嬉しかったらしく頬を染めて微笑んでみせた。
 神田も慣れない言葉をかけた所為だろう、照れた頬を見られないように背を向けて、悪態をついて館の入り口をくぐっていった。



 扉をくぐって階段の手すりにで待っていたのは館の跡取り。
「遅かったさ、ユウ」
 アレンに手出したりしてないよね?

「したらお前に潰されるんだろう?しねぇよ」

 ラビは窓から一部始終を見ていたのだろう。やけに絡んだ視線を投げ付けて来る。
 神田はそれを見越して、ラビに釘をさされてもなんなく躱してみせた。アレンに目をつける貴族や上流人間は意外に多く、ラビは幾度となく彼等を社会的地位から落としていったのだから。
 
 だから神田はまだ許して貰えている方。神田はラビの裏の家業を知っている数少ない人物でもあるから。
「さすがユウ!俺の性格よく分かってんじゃん?」
 ラビの性格は3年前から変わってはいない。根本的なことは何一つ。ただ一つ執着心だけは表に出すようになったのが神田には驚きだったが、それもまあ良い傾向に思えたから。
 全てはアレンがこの館で住み込みで働くようになってから、全てが変わった。
「・・・告白する気はないのか?」
 アレンに。アレンだって、ラビの事は嫌いじゃないし、むしろ好いている筈だ。でなければこんな長く働けやしない。神田は見ていてもどかしかった。
「・・・ないよ。そんな勇気、俺にはねーもん」
 ブックマンが現在何を言っていようと、ラビが跡を次いでしまえば、どうとでもなる問題の筈だ。
 それが神田には理解不能だった。
 ブックマンが基本的に何をしているのか分からない訳ではない。
 ただ人に対する「執着心」だけは捨てるようにでも言われているのはなんとなく伺い知れた。

「・・・またあいつの寝所に潜り込んでいるのかよ」
 ラビが瞳の奥に暗い炎を見せる時は大抵そうらしい。

「本当は毎日でもしたいトコだけど、さすがにマズイさ」
「だったらさっさと抱けばいいじゃねぇか。あいつもお前も見ていてもどかしいんだよ!」
「情が移ったら、戻れないってユウは知らないさ?」
 だからラビはアレンを抱かない。告白もしない。けれど手放す気もない。
 ただ隣で寝ることだけに許しを乞うように、アレンのベッドに深夜潜り込んで一緒に眠る。
 それだけ。
「お前…本当はしっかり数えているんだろ?」
 アレンのベッドに潜り込んだ回数を。アレンがいる前でラビと3人話したことがあって、神田もそれにはさすがに呆れた。
「もちろんさ。けどそんなことアレンに教えられないさ〜?」
 神田はラビが一応常識ある人間であることに内心ほっとした。 
 けれど危惧する。

「お前、いつか壊れるぞ?」
 抱かずに。
 告白せずに。

 ただ隣で眠ることが苦痛になるということは、精神的にも追いつめられるということ。


「既に壊れてるかもしれないさ?」
「・・・ばかが」











 続く→5へ
 
 

 

暗いね。
ラビも神田も。
この話ではいささか神田が良心的な人間ぽい。(それじゃいつもは違う言い方)
カンダとアレンの出会い編書き損ねた。機会出来たら番外編でも作ろうかな・・・

 

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