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彼女の心、誰も知らず
リー家に着いてまず出迎えてくれたのは家の主人であるコムイだった。
「やあ、いらっしゃい。ラビにアレン」
「よ」
「コムイさま。お招きありがとうございました」
「いやなに、リナリーのたっての希望だからね。神田君も既に来ているよ」
コムイにとって愛しい妹の頼みということで幼なじみを呼んでお茶会をしようということになった。
本来の幼なじみではないアレンも何故か呼ばれることになって始め、酷く恐縮した表情をしていたのだが、コムイが理由を話すとますます恐縮してしまった。知り合って3年経つが、お茶会に呼ばれたのは初めてだ。
「あのっ本当に僕もご一緒させてもらって宜しいんでしょうか?」
「やだなぁ、まだ言っているの?アレン君。君はね、3年前からずっとリナリーのお気に入りなんだよ?いい加減受け入れてくれても良さそうなんだけどね?」
僕も君のことは凄く気に入ってるんだよ?忘れないでね?
コムイはにっこりとアレンに告げるが、そんな彼を冷たい視線で見つめるのはラビ。けれどアレンは気がついていない。その分しっかりとコムイは気付かれないようにラビに視線を返す。それはラビの気持ちを知っている上でのことだ。
「・・・はぁ」
コムイの苦笑して話す言葉を未だ信じられないアレンは、『僕は一介のメイドなのに。』と項垂れた。
住む世界も違うのに、皆優しくて、今も夢を見ているんじゃないかと思えて、アレンはますます落ち込んだ。
「アレン、また考え過ぎ。ここは貴族社会と違うんだからそんな気兼ねしなくてもいいんさ?」
落ち込んでいると前からラビの言葉。
慰めてくれるのは本当に嬉しい。こんな本当なら捨てられて、そのまま死んでいてもおかしくはなかった自分だったのに。
アレンだから皆優しくしてくれるということに気付かないまま歳月が過ぎて。
もう3年も経つのだ。
二人が客間に案内されて中に入ると、リナリーがすぐさまラビの横を通り過ぎ、両手を取って歓迎した。
「あっアレン君。久しぶり!元気だった?」
「えぇ・・・リナリー様もお元気そうですね。お変わりなかったですか?」
「リナリー、俺っち無視さぁ?」
「お前ら、さっさと席につけ!」
リナリーとアレンが再会を喜んでいると、先に到着していた神田が焦れて叫んだ。
暖かい湯気が部屋を包み、寒さに凍えていた身体も解きほぐれた。
いつもはメイド服のアレンも今日は私服だ。今着ているのはラビが誕生日に贈ってくれた服。本当の誕生日ではなかったけれど、ラビはアレンの誕生日を毎年祝ってくれた。
「でもアレン君、3年経った今も「様」呼びなのね。ちょっと他人行儀ぽくて寂しいな」
それに「僕」って相変わらずだし。
「でもリナリー様は・・・っ」「今日だけはリナリーって呼んで?」
アレンの言葉を遮るように、リナリーはウインクして見せた。困った表情になったアレンを畳み掛けるような言葉がやってくる。
「リナリーの事だけでなく、俺達も「様」づけで呼ぶなよ、今日くらいは」
「神田さ・・・」「言うなってんだろ」
神田もリナリーに同意して口を開けば、早速アレンが「様」をつけそうになり、素早く遮って叫んだ。
アレンはとうとう困ってラビを見上げた。
ラビから二人に言って欲しかった。自分はそのような呼び方は出来ないと。
けれど期待はあっさり裏切られる。
「二人の言う通りさ。俺も今日くらい『坊ちゃま』呼びは禁止。な?アレン」
見上げたラビは悪戯小僧の笑みをアレンに向けていた。
その嬉しそうな笑顔を見てしまっては、アレンは何も反論出来なくなり、渋々頷いた。
「じゃあリナリー、今日はお招きいただいてありがとうございました」
これ、焼いてきたクッキーとケーキなんです。
アレンは彼女の満足そうな笑みを見、持っていた包みを渡した。
「わぁ・・・ありがとう。アレン君、今準備してくるから座って待ってて?」
リナリーは「アレン君の作るお菓子はおいしいから好きよ」と言っていたのを思い出して、昨晩の内に準備していた。アレンが「手伝います」と声を掛けると「お客さまは座ってて!」と強い口調で叱咤され、仕方なく椅子に座って彼女を待つ事にした。
「にしてもユウは相変わらず早いさね?」
「悪いか?遅いよりはマシだろう?それよりモヤシはいつもの服と違うんだな」
神田は見た瞬間目が点になるほど驚いたのだが、リナリーが前に立ったお陰で見られる事無く済んだ。
ラビに見られたら後が大変だと熟知している為、すぐに平常心を取り戻したが。
アレンは神田の言葉に「アレンです!神田こそ、今日くらい名前で呼んで下さいよ!」と付け足すのを忘れなかった。神田は下の名前で呼ぶとなぜか怒るのを知っていたから、アレンは敢えて姓を呼ぶ。
「ええ。坊・・・ラビがこの前の誕生日に贈ってくれたのなんです。似合ってますか?僕こういうの着た事ないからよく分からなくて・・・」
「だから俺言ったっしょ?よく似合ってるから贈ったんだって〜」
「ああ。似合ってる・・・孫にも衣装か?」
「ユウ、それけなし言葉さ」
「・・・こういうの着れただけでも嬉しいです。僕は」
アレンが頬を染めて可愛らしく微笑むと、その場にいた少年二人は思わず固まる。
「?どうかしましたか?二人とも・・・」
アレンから見ても分かる程に顔色は真っ赤、けれどアレンがその意味を知る事はない。
「なっ何でもねぇよ!」
「そうそう、そんなに喜んでもらえるんならもう1着贈っておけば良かったさー」
神田とラビは我に返り、焦ってひときわ高い声をあげた。
続く→6へ
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