|
彼と彼女の秘めた想い
あの日以来。
ラビの態度はどこかおかしい。
「坊ちゃま、布団欲しいたいのでいい加減起きて下さい〜〜」
良く晴れた日のこと。
アレンは久しぶりにシーツや大きな洗濯物を処理して気分もいいからとラビやブックマンの使っている寝具も洗ってしまおうとはりきっていた。
しかし肝心のラビはなかなか起きようとしない。
必死に毛布の端を引っ張って引きはがそうとするのだが、どうにもならなかった。
実は起きていて寝たフリしてるとか?
アレンはそんな事を考えていた。考えたくは無いが、ラビが自分を避けている事を。
そういえば最近自分のベッドに入ってこないので安眠が確保されていてアレンはほっとしていた反面寂しかったものの、一介のメイドの自分がそんなこと言えるはずもなく、そのまま日が過ぎていた。
時期は春先。
暖かいというにはまだ程遠く、気温も肌寒い程度。
人一倍寒がりのラビは布団の中で身体を丸めて眠っていた。
時刻はそろそろ朝の九時。朝食はその時により時間帯も決まっていないので自由な身分だ。しかし遅くてもいつも9時前には起き出しているのに。
今日は目覚める様子がなかった。
アレンは頼める誰かもいなくて途方に暮れた。思い付く起こし方を一通りやってみるものの、意外に寝汚いラビは時々低血圧になる。そういう時は大抵ブックマンから出された課題で毎夜遅くまで本に没頭しているから。
「もうっ・・・ん?」
「・・・ん・・・アレ・・ん」
ラビが半分瞼を押し上げて、アレンを見上げていた。
「ほら、起きて下さい。もう9時回りましたよ?」
「んー・・・もうちょっと寝かせて・・・」
ラビはアレンの掴んでいたシーツを引き戻し、その身を隠そうとする。
「ちょっ・・・寝ぼけてっ・・・あっ」
アレンは掴んだままだったシーツを引かれ、突然のことにベッドの上にダイブすることになった。
このままだとアレンの身体は間違いなくラビの上に落ちると判断したが既に遅かった。
「ぶっっ!?」
「ひゃっ」
ラビはいきなり自分の上にのしかかってきたアレンの身体を受け止めきれなくて(寝ぼけていたから当然だが)、蛙の潰れた声と似たような悲鳴をあげた。アレンは必死にベッドの渕に肘をつっぱねたものの、その身体はラビの胸を跨ぐような体勢になってしまった。
「アレン・・・?」
「ごっごめんなさい。すぐ退きますね」
ラビは何故か硬直していた。アレンが失態の恥ずかしさに急いで退けようとしたのに、その腕を掴んで放そうとしない。
「えーと・・・坊ちゃま?」
放して下さい。
そう言おうとして、いきなりアレンの視界が反転した。
「え?・・・んんっ!?」
暖かいモノが唇に当たっている。
「ぁ・・・レン・・・」
目の前にアップで映っているのはラビだ。彼の顔にアレンは見とれた。
ラビはアレンの名前を確かに呼んでいる。
訳が分からない。
理由が掴めない。
執拗に唇を貪るラビに、追いつめられ、アレンは酸欠で苦しくなってきた。よく慣れたような舌が蠢いてアレンの舌を追いかけて。自分がキスされていることを漸く理解した。しかも寝ぼけているのか起きているのか解らないが、ラビは自分を求めているのだとアレンは知った。
それは酷く嬉しいこと。嬉しさに涙が出そうだったが、それ以上に切なくて胸が苦しい。
この恋は一生秘めておこうと決めたもの。
胸に差し込まれた手に、アレンは慌ててラビの身体を引きはがそうとする。
「んんーっ!?ぅ・・・っちゃま!ダメ!ダメですってば!」
アレンが真っ赤になって叫ぶのもラビには聞こえているのかいないのか、その手は止まらない。
下着の上からなぞられて、アレンの身体が震えた。
これ以上はダメと脳は警告を発して。
『ラビ!』
アレンの叫びに、ラビはやっと我に返った。
そして今まで行っていたことが夢ではなく現実だということを。
「ぁ・・・はぁ・・・」
アレンは乱れた姿でラビの身体の下にいて、肩で激しく息をしていた。
「・・・アレン・・・」
視線はラビを見ていない。ラビが外した上衣の前をかけ合わせて。
両足はしっかり閉じられていた。
「・・・目は覚めましたか?」
「あ。ああ・・・」
てっきり怒られるものと思っていた。アレンはこういった冗談が好きじゃないから。
冗談と取られても悲しいが。
「悪ぃ・・・」
自分は本気だ。けれど今は謝るべきだろうが、誤解はされたくない。
アレンにだけは。
ラビが項垂れている中、アレンは脱がされた服をゆっくりとした動作で拾い集めて。
「いえ・・・坊ちゃまが悪いんじゃないですから」
悪いのはラビの気持ちを知らないフリをしている自分だとアレンは恥じた。
ベッドから起き上がり、アレンはふらりと立ち上がる。
足下が覚束無く、ラビは心配で駆け寄ろうとするとアレンに止められた。
「朝食の準備しますね。ちゃんと起きて来て下さいよ?坊ちゃま」
「あ・・・あぁ」
振り返ったアレンはラビに襲われる前の表情だった。
それはアレンなりのケジメだった。
続く→8へ
|