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秘める恋は少女と少年を蝕む。
その日は一日、アレンとラビは口をきくことはなかった。
別にアレンが避けているわけでもラビが避けているわけでもなかったが、なんとなく気まずくて、言葉が見つからないのが本当のところだった。
「何かあったのか?」
「べつに?」
そんな状態の二人の間に旧知の人間が割り込んだりするとすぐ異変に気付く。
今日は呼んでもないが神田が突然やってきた。神田の方に用事があったらしい。
「モヤシも真っ青な顔色でいやがるし・・・無理させてるんじゃねーのか?」
アイツふらふらしてたぞ?
神田の言葉にラビはぎくりと身体を強張らせたが、返す言葉を考えているようだ。
「んーちょっと無理させちゃったカモ・・・しんないさー」
「なんだその歯切れの悪さは・・・やっぱなにかあったんだな」
神田はラビに詰め寄る。言わないと殴るぞ?ぐらいな気迫を見せて。
「出来れば聞かないで置いてくんない?じじいに知られたらアレンの立場もヤバイしさ?」
ラビの言葉に、二人の関係がこじれていることは窺えた。お互い好きあっているのに、想いを告げることが出来ないもどかしさ。二人とも「告白する気はない」のだから、気が合うだろうに。
いつまで「しがらみ」に縛り付けられるつもりなんだろう。
「はい、そうですか?って言えると思うか?」
「だよなぁ・・・そこをなんとか・・・今はもうちょっと・・・そうだな。俺がアレンと仲直りするまで」
喧嘩ではなかった。けれどアレンは朝食時からずっとラビと視線を合わせない。それだけでなく、必要最小限の返事と言葉しか交わしていない。
「チっ・・・仲直りか・・・一体いつになることやらな」
神田は何か考えているようだ。ラビの性格だったら、うまく誤魔化してすぐ関係改善を望むのに、それが出来ないなんてかなり重症の証拠だ。それ以前に関係がこじれるような人間の付き合い方をしない奴だと思っていたのに。
『相手がモヤシじゃな・・・無理もねぇか』
自分だってアレンを好きなのには変わりがないが、神田はそれを伝えることはしない。するつもりもなかった。何しろ恋敵は親友でもあるラビなのだ。神田にとってアレン同様にラビも大事なのだから。
「出来れば早くしろ。こんな辛気くさいのはさっさとおさらばしたい」
「・・・分かってるさ」
神田は話すだけ話すと用件を済ませて自宅へ戻って行った。
ラビは暫く部屋から窓の外を眺めていた。それはアレンを見るため。神田にああ言った手前、やはり気になって目が離せない。話をかけようにも切っ掛けが掴めないし、何から話したら良いのかもわからない。
しかしアレンが寒さに震えているのを見つけ、外へ走り出した。
その様子にアレンも気付き、ラビを振り向いた。
「坊ちゃま、何か?」
「アレン、家に入るさ。顔色悪いぞ」
けれどラビの言葉にアレンは視線を逸らして再び庭の仕事に戻った。
「・・・ダイジョウブです。」
ラビにはアレンのその言葉が自分を拒否しているように見えて、ムカついた。
アレンは三年前から変わっていない。強情なところも、自分の感情を押し殺す所も。
ラビはそれが寂しくて、歯がゆくて仕方がないのに。
「どこがダイジョウブなんさ?自己管理はきちんとするようにって、前に言っただろ!」
「してますよ。知りませんでした?僕結構寒さにはつ−」
強いと言おうとして目の前に立っていたラビに気付き驚いた。
ラビの表情は怒りではなく苦いものを含んでいた。
我慢しようと思っていた言葉だったが、アレンを見ていたら、どうでも良くなって口から出る。
「俺、アレンの事好きなんさ。だから寝ぼけてたのは本当に済まないと思ってる」
「・・・」
アレンと気まずい原因なんて一つしかない。アレンが今自分の感情を押し殺している原因も。
「けれど今朝したことは謝っても、俺の想いは嘘じゃないから。それだけは覚えておいて?」
ラビはそれだけ言うと、屋内に戻っていった。アレンをそのままに。
「ラビ…」
一人残されたアレンは立ち尽くす。
ラビの事は好きだった。もうここに来た時から、一番大切な人に変わっていた。
それだけで十分幸せだった。
例えラビが他の誰かと幸せになったって、それはゆるがない。
なのにこれ以上自分に降って来る幸せを受け止めたら、後が恐い。
「そんなこと、出来る訳…ない」
だから感情に蓋をしていたのに。
今ラビの言葉一つで、その心が揺らぎつつあった。
続く→9へ
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