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秘め恋の寄り道。
アレンは街中を歩く。
一つは買い出しの為。もう一つは頭を冷やす為に。
ブックマンの館は本来二人暮しで大量な買い出しを必要とはしない。主のブックマンも殆どを不在にするから、実質館で生活するのはブックマン家の跡継ぎたる少年ラビと、住み込みハウスキーパーという職業の少女アレンの二人のみ。
今日の買い出しはあるはずと思っていた洗剤と調味料が底を切りそうだったから。
吐いた息が白く宙へ消える。
街中は真っ白一面の雪景色で、寒さも一段と強い。
「・・・」
こうして雪を眺めているとマナと死に別れた日のことを思い出す。雪に付随して沸き上がる記憶はマナに関するものばかりだ。マナに拾われたのも雪の中だったとマナが話してくれたのを記憶している。
「最近まで忘れていたのに…」
マナを忘れたわけじゃない。むしろここ数年、アレンの周りは賑やかだったから。痛い思い出を思い出さずに済んでいた。
「なんで今頃思い出すんだろう…」
痛い思い出に身を浸しながらアレンは雪の道を踏み締めて歩いた。
「待てっ!」
アレンがぼぅっと歩いていたその背後から衝撃と声。
「?」
どんっっ。と、何かが背中にぶつかって来て、アレンは雪の中に顔から突っ込んだ。
「っ〜〜!?」
下が雪で良かったと思う前にアレンは何事かと面をあげて背後を振り返ろうとした。
「なんだこの小娘は?」
「しるか。おい小僧、さっさとこっちに来い!」
アレンが顔を上げると二人の男に取り囲まれていて、なぜか背中にくっついていた少年ともども見下ろされていた。どちらも見た事のない顔で、アレンは驚き、少年を見ると視線があった。
「あの…無理強いは止めた方が良いのでは?」
少年の縋付く視線と手にアレンは思わずそんな言葉を吐き出していた。この力の無い自分がこんなことを言える立場にないのは分かっているが、ここで少年を見放したら、きっと後味の悪い思いを引きずり続けるだろうと知っているから。
「お前には関係ないだろう?それとも痛い目にあいたいか?」
「ご免なさい。でも大人二人が少年一人を追っかけているのを見逃す程、落ちぶれたくないんです」
アレンはにっこり微笑んで、少年を立たせ、背後に回した。そしてその身体を押し出す。
逃げろ、と。
「…ありがとう」
少年はアレンに聞こえる程度の感謝の意を表し走り去った。
「…」
それは男二人があぜんとする程スムーズな動きで、少年を追うのを忘れる程。
「…逃がしやがった」
「…まあ直ぐ追えるけど、やっぱ痛い目に遭いたいようだな」
この通りは人が少ない。アレンはやはり大通りを歩けば良かったと後悔したが後の祭り。
けれど自分一人の犠牲であの少年が助かるなら、安いものだと思った。けれどアレンも黙って犠牲になるつもりはなかった。
少年を逃がしたのは屋根の有る裏路地で、雪の無い走り易い道。隙を見て走ろうと思ったが先に行く手を塞がれてしまった。二人はアレンを追いつめ、その道に入る。
「つっ」
腕を捻りあげられて、壁に身体を押し付けられた。
「お前の髪の色は地毛か?」
もう一人の男が少女の髪を一房掴み引っ張った。
「っ」
アレンの見事な銀髪はそれ程多い訳ではないが少なくもない。(貴族の中にはファッションでウィッグをつける者もいるくらいだ。)
もっとも地毛は珍しい。アレンはそれを知らないから男達の視線の意味が分からなかった。
「そんなこと貴方達に関係ないでしょう?痛っ!!」
胸ぐらを持ち上げられて、アレンの身体は地面に転がされた。
「おい服を脱がせろ!抵抗出来なくしてやる!」
もう一人が寄って来てアレンの服を脱がし始めた。
「っ!?やっ…」
アレンはそうなるとは予想してなくて、両手両足をばたつかせ、暴れようとする。
「静かにしろ!お前の所為で手間かけさせられてんだから、これくらい安いもんだろ!?」
ばちん。とアレンの頬が鳴った。叩かれた衝撃に一瞬気を失いかけた。しかしそれはほんの一瞬だけ。
再び両手両足を動かす。声もあげようとしたが、察した男が手をかけてきた。
「むー!!」
「面倒だ。腕の一本でも折っておくか?・・・おいっこいつの左腕、真っ赤だぜ?」
気味悪りぃ。
「!?」
「ふん…大方やけどだろう?顔と身体が文句なければ問題ない」
「そうだな」
露になった左肩から腕と手がアレンには分かった。
そしてこの左腕が普通の腕よりも堅いことを思い出す。ならばとせめてもの抵抗にと。
男の顔に爪を立ててやった。
ちょうどその左腕は拘束されていない。
「痛ぇー!何しやがるっ!」
服を脱がしていた男はアレンの爪が目に入ったのだろう、仰け反って顔を抑えていた。
「こいつっ!!」
もう一人はアレンを壁に抑えていた男で、相棒の負った怪我に憤慨して少女の首に手をかける。
「ふっ…」
その手に力がこもればこもる程アレンの咽頭は締め付けられた。
苦しい。
アレンは思って無意識に相手の手首を掻きむしる。途中相手の手首から血がにじみ出たが、首から手を離そうとはしなかった。
「っ…ぁ…」
僕、死ぬのかな?
こんなところで死にたくない。そう思っても手に力は入らず、のどからもれる空気は声にならない。
ラビ。
アレンがぼんやり思い出したのはたった一人。
続く→10へ
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